「アルジャーノンに花束を」感想

3月のクラセン大千秋楽に続き、また北翔海莉さんに会ってきました。今回は「アルジャーノンに花束を」東山さんと大山さんもクラセンから一緒。場所は日本青年館で、ちょうど一年前の「銀河鉄道999」の時会場まで来て休演を知ったトラウマwがあったので、今回は電車で何度もスマホチェックして行きましたw

原作はだいーーぶ昔、小学校高学年くらい?の時に読んだきり。当時「24人のビリー・ミリガン」がベストセラーになったんですよね。多重人格とか流行ったわー。当時オカルトに近い扱いされたけどいわゆる「解離性障害」の一種なんだけどね。それはともかく、作者が同じダニエル・キイスのこのSF小説がリバイバルヒットした、みたいな流れだったかな?実家に行けばおそらく今でも本棚にあると思うけど今回敢えて読み返すことはしなかったです。

というのも、ぶっちゃけると正直そんなに期待してなかったから。もし贔屓が出てなかったらスルーしていた演目だったと思います。だって、国産ミュージカルで「これはすごい!万人に勧められる!」というものが正直すくな……げふんげふん。とにかく、日本はまだまだこの分野においてはコンテンツ生産能力は発展途上と言わざるを得ないですよね。

そんなわけで北翔さんとクラセンの愉快な仲間たち、あと浦井さんも初めてだから楽しみだなくらいの軽い気持ちで見たら……これが大正解でした!!贔屓が出ているからとかそんなの抜きにしても普通に面白かった!原作の出来がいいのは知ってたけど、脚本もいいし、演出もいいし、音楽もよく芝居に馴染んでたし、演者もみんなうまかったしでよくまとまっていた。嬉しい誤算ってやつでした!

内容はすごく単純、知的障害を持つ青年チャーリーが突然高い知能を得たらどうなるか?という話。この荒唐無稽な命題に対してとことん想定される事態を突き詰めて話が練られている。そこに不自然さが全くなくて、まるで見てきたようにリアルな描写がされてるんです。単純な命題に対して真摯に取り組んでいる。こりゃ場所や時を越えて語り継がれる名作になるわと思いました。

優しいと思っていたパン屋の店員たちの小狡さに気づいてしまって許せなかったり、自分より頭がよかった医療者が急にバカに見えたり、性の問題に急に直面化したり。こういうのがいちいち胸をえぐるんです。だってチャーリー悪くないもの。そりゃみんなバカに見えたって仕方ないよ。知能だけ高くなっても情緒は育ってないんだから精神が不安定になるよ。周りと不協和音起こしても彼のせいじゃないよ。

じゃあ周りの連中が悪かったのかと言うと、そんな単純な話じゃない辺りがまた複雑。パン屋の店員たちが「こいつバカだから仕方ないよ、アハハ」と温かい目で見てきたことが、チャーリーが利口になって形成逆転したことで、ただの差別に過ぎなかったというのが露呈してしまってエグいエグい。それでも、そういうものに今までのチャーリーは守られていたのも事実なのがまたエグい。自分より偉いと思ってた医療者たちがただ偉ぶってただけと知ったらそりゃバカにしたくもなるよ。それを抑える思慮を身に付けるには時間が足りなさすぎるもの。でもバカにされたら相手もムカつくもんなんだよ。そりゃアリスも怒っても仕方ないよ。家族に会いに行って、自分に冷たく当たった母はボケてて、ワガママな子供だった妹は思慮深い大人になってた辺りも皮肉。怒りをぶつける場がない。回想の中の父親はええカッコしいなこと言いながら母に全責任おっ被せていて、現在は全く息子のこと思い出しもしないのも皮肉。全てが皮肉で、誰が悪いとか何のせいとかでもなくて、それぞれの世界が少しずつずれてることによる悲劇で、チャーリーがその運命を静かに受け入れるのが本当に胸が痛くなるのです。荒唐無稽な話なんだけど、説得力がものすごい。

北翔さんはアリス・キニアンという医療者の役。ある時はよき理解者、またある時母親、更には初恋の人とチャーリーにとってはかなり重要なキーパーソン。だから出番も多くて衣装替えも多くて、本当においしい役でした!もちろんそれだけでなく、彼女の持つ包容力や優しさが十二分に発揮されていて役にピタッとハマっているところも最高。いい演目でいい役に出会ってよかったねえと何様目線か知らないけど勝手にそう思ってましたw 贔屓の行くところ大体どこでも着いて行くけど、やっぱり全体的にいい舞台に立って欲しいという気持ちが大きいです。その上で個性に合った役をやって欲しい。ハコの大きさとか知名度は二の次で。今回はその辺りが見事に合致してて大満足でした。もちろん歌うまなのは言うに及ばず、耳が幸せでうっとりしてしまいました。彼女のお子さんはあの歌がタダで毎日聴けるんだから羨ましい、飴あげるからちょっとそこ貸してって思っちゃいましたw

もちろん全体的によかったという場合は贔屓だけがいいはずはなく、チャーリーを演じた浦井健治さんの存在感が抜群でした。短時間にチャーリーのあの変化を演じ分けしなければならないから難しい役どころだけど、本当に自然ですんなりと受け入れられた。特に始めの辺りは演じ方によってはバカにしてるようにも見えてしまうと思うんだけど、その辺の匙加減が絶妙と言うか、やはり百戦錬磨の人だなという印象でした。東山さんは医者とパン屋とチャーリーの父親の三役。演じ分けがすごくて、三者三様の佇まいがどれも違って見えた。最後の方にソロで歌う場面があるんだけど、これがまた切なくてとてもよかったです。そして、大山さんの小狡いパン屋と横柄な医者もよかった。こういう人いそうだな!って感じがものすごくするんですよ。芝居心があってシリアスな舞台ではこういう顔を見せるのかと嬉しい発見でした。巨悪というより、小市民的なセコさのある役がものすごくハマってました。

そんなわけで、東京公演は終わってしまうけど、西に住んでいて見られる人は見に行った方がいい。派手じゃないけど自信を持っておすすめできる舞台です。当日券あるみたいだし、後出しトークショーもあるしw結構余ってるのかな?と思いきや、2階席まで埋まってて大入りでした。やっぱり評判いい舞台なのはみんな知ってるんだなと思いました。

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