アルジャーノンぶりの観劇です〜。今回は、というか最近いつもそうなんですが、直前に中止になった時にショック受けたくないので予習、前知識なしで見るようになりました。これも全く予備知識なしで観劇することに。しかも月組はこれが初めてよ!前にやってた配信も、生の感動を直で味わいたくてスルーという徹底ぶり。そんな感じだったのでいきなり作品世界に放り込まれましたが、数ヶ月ぶりということもあって楽しめました。それでは早速感想行きます。あ、ネタバレまみれなので注意してね。
舞台は1920年代のベネチア。第一次世界大戦で身近な人が死にまくった後の厭世感と刹那的な享楽にふける時代が舞台。戦争は終わったけど、人々の心には大事な人を失った癒え難い傷が残り、一見生を謳歌してるように見えるけど、常に死と隣合わせのような、そんな不穏で不安定な空気に包まれています。
そんな中、戦争で人の死に立ち合いまくりの死神はワーカホリックぎみ。ある日生命力にあふれる美しい娘、グラッツィアの命を助けて、自分も人間界に身を置いてみたいと思い立つ。そこでロシアの亡命王族になりすまし2日間だけの休暇を取ることに。なぜかエリザベートを想起させる出だしなんです。
こう書くとコメディのように思えるでしょ?確かに序盤はコミカルな展開が多いんです。死神と侯爵のやり取りなんか特に。だから「これはこういう作品なんだな」と思って見ていると、戦死したロベルト(侯爵夫妻の息子)の影が重くのしかかってきたり、パートナーを死んだ夫だとずっと誤認してる老婦人が出てきたり、重い現実が描かれる。底抜けに明るいタップダンスのシーンがあったかと思うと、息子の死を受け入れられない母の嘆きのシーンが入る。この生と死の間を行ったり来たりする幽玄さというか不安定さが変な癖になるんです。足元がぐらぐらした土台にいるような不思議な感じが、この舞台を見ている間ずっと続いてました。
舞台が1920年代というのもそんな雰囲気に拍車をかけてる気がします。フラッパーにアールデコにお洒落なスーツ。私だけかもしれないけどこの時代の風俗やファッションって死の匂いを感じる。未来を知っている我々は二つの世界大戦の間にある、束の間の平和な時代ということを知ってるせいでしょうか。因みに、少し前に同じ月組でやってた「グレート・ギャツビー」と同時代なんですね。
そんな中、死神の月城かなとさんがクラシカルな男役としての魅力を振りまいていて、色んなスターさんがいるけどこの人は正統派ってやつや!と私でも分かりました。死神だけあって他の人とは交わらない異質な芝居をしていて、それが美しいかつどこか不気味なんですよね。たった二日間だけだけど人間として生活して人としての悩み苦しみ喜びを学習するわけだけど、彼だけ異質。トップスターという役柄にぴったりな役だなと思いました。
ただ、肝心の脚本がなー……これが言いたかったんだろうというのは、こちらが慮って何とか読み取れるけど正直分かりにくい。先ほど述べたことも、裏を返せば「コメディかシリアスか分からない」ということであり、これは狙ってやったことではなくて、どっち付かずの脚本だったからのように思うんです。見る側としては「これはこういう作品なんだな」と当たりを付けて見る癖があるのに、それがいつまで経っても見えてこないから立ち位置が分からなくて不安。作品のテーマがテーマなだけに、この不安感が不思議な効果をもたらすんですが、まあ偶然でしょう。それより1幕をコメディ調にして最後だけ不穏な幕引きにした後2幕でシリアスに転じるとかの方が良かったと思う。あと、本題に入るまでが長い!死神が「俺疲れちゃったよー休み取るわー」って言うところで「やっとかよ!なろう小説なら1行目で追放されたり婚約破棄されたりしてるぞ!」と思わずツッコミ入れちゃいました。
ツッコミどころは他にもあって、サイドストーリーとして脇役の悲喜こもごもが描かれるんですが、伏線なく「実は君のことがすきだったんだー!」「私正気にもどったのよ!」とかやられるのでえーっ!となったり、最後も死神はグラッツィアを連れて行かないと約束したのにあっさり連れて行っちゃったり、その辺が唐突だから「愛は死よりも尊いのよ」とか言われても「ふーん。死んだことないから分からないや」としか思えなかったり、ヒロインのグラッツィアも、うまくキャラ立ちしてないからどこがいいのか分からなくて……ただの面食いな恋に恋するロマンチストとしか思えなくて、何で死神に惚れたの?イケメンだったから?しか思えなかったのもなー……ラストの真っ白になった2人の美しさに力技で持って行かれて満足しちゃったけど、冷静になって考えるとかなり変だぞ?と帰りの電車で思いましたw まあ、本当はもっとあるんですがこの辺にしときます。とにかく脚本が雑!見ながら頭の中で勝手に赤ペン修正してました。
でも音楽の良さだけでお釣りが来るくらいよい!音楽がモーリー・イェストンだもの、それだけである程度成功が約束されたようなものです。特に1幕最後の洞窟での歌が幻想的でシーンとマッチしてて個人的には印象的でした。月組の方もみんな歌うまで耳も幸せ。あと、舞台セットも良かった。湖畔の別荘のセットが盆の上で回りながら色んな表情を見せて素敵だった。別箱ながらそれなりに予算かかってるんだなと分かりました。
そんな訳で、結構注文をつけてしまったけど、酷評はしたくないんだよな。変な魅力があって癖になると言うか、忘れ難い印象を残すと言うか。少しいじれば化ける可能性を秘めてるからもったい気がして。何せ音楽がいいからね。後は死神の目的を早めに提示して、グラッツィアと相思相愛になるまでをじっくり描いて、サイドストーリーはもっと整理して、あ、そうそう、タイトル何が何でも英語じゃなきゃダメ?「死神の休暇」でよかったんじゃない?etc……っていっぱいあるやないかい!それでも組子の皆さんの魅力と熱演でなんだかんだで楽しめちゃいました。宝塚ってこういう演目多いよね。