ブログタイトルがアレなのにしょっぱなが紅はこべなんてw間もなく宝塚でスカーレットピンパーネルの再演があるらしいのでこちらを先に。
学生の頃NHK FMで青春アドベンチャーというラジオドラマ番組を聞いていて、そこでやっていたのが紅はこべ。主人公サー・パーシー・ブレイクニーを演じていたのは筧利夫だった。まだブレイクする前かな?彼が演じる飄々としつつも凛々しいパーシーに魅了され話も面白かったので河出文庫の原作本を買った。ラブロマンスあり、葛藤あり、冒険あり、トリックありの欲張りでてんこ盛りな冒険活劇にハマったハマった。
その後映像化作品を探したり、ミュージカル版を見に行ったりと手を広げつつ長年愛してやまない紅はこべ。実はシリーズ物で、短編集や、先祖や子孫を描いたスピンオフや、設定資料集みたいなものや、パーシーが現代の(と言っても1930年代だが)風俗について論評するという、同人でやれと言いたくなるような作品まで含めると続編が10冊以上もある。しかし日本では最初の1冊しか翻訳されていない。翻訳者が後書きで「続編の出来は最初の一作には及ばない」と書いているが、原書で続編読んだけどそんな事ないよ!とても面白いよ!今からでもいいから翻訳してくれ!!と声を大にして言いたい。
そんな訳で、紅はこべについて語るととても長くなってしまうのでここでは原作第1巻について私見を。
簡単なあらすじ。時は1792年、フランス革命で荒れるパリで貴族をギロチンから救う紅はこべという謎の存在が話題になっていた。正体はイギリス人の貴族だと目を付けた革命政府の役人ショーヴランは、裕福なイギリス人貴族サー・パーシー・ブレイクニーと結婚したフランスの元女優マルグリートにスパイとして紅はこべの正体を暴くよう詰め寄る。彼女は拒否しようとしたが、兄が紅はこべの一味である事を明かされ脅迫されたため従わざるをえなくなった。夫のパーシーは洒落者で常におちゃらけている頭空っぽの紳士。マルグリートが犯した過去の事件がきっかけで夫婦仲は冷えており、夫にも相談できぬまま兄か無実の貴族を救う英雄かの選択に迫られた彼女は動き出すが…
ま、紅はこべの正体はパーシーなんですけどね(いきなりネタバレ)。いや、さすがにこれは隠しきれないでしょう。ドラマ版も映画版もミュージカル版も序盤で明かしちゃってるし。でも小説では中盤まで明かされない。最初から最後までマルグリート視点で物語が進む。
ここまで好き好き言っているが、実はツッコミどころ満載なのは認めざるを得ない。マルグリートは「ヨーロッパ1の美貌と頭脳を兼ね備えた女優」と表現されているが、やってる事は全然賢く見えない。結構パーシーにひどい仕打ちしてるし。それも後に夫を救うため奔走するから帳消しにはなるのだが(関係ないけど、20世紀始めの小説としては女性が主体的に動くというのは斬新だったんじゃないかと思うがどうなんだろう?)。あと、紅はこべの計画も穴だらけで「よくこんなの成功するな!?」って思ってしまう。パーシーは「細部まで綿密に計画してあって偶然に任せることはしない」なんて言ってるけど、いやいや偶然だらけじゃんよ!って突っ込みたくなる。
じゃあ何が面白いの?と言うと、話が動き出してからのスピーディーな展開。序盤がダルいのがネックだが、続編も同様なのでこの作者の特徴らしい…話が進みえ?え?次どうなるの?って思ううちに引き込まれて、アラは見えるけど「こまけえことはいいんだよ、いいから続きはよ」ってなる。次に魅力的なパーシーのキャラクター。バカっぽく装っているが実は有能で勇敢なヒーロー像の草分け的存在とも言える。言ってる事もいちいち皮肉が効いていて「すごく…イギリスです」って感じ。一方で実は情熱家。マルグリートに心を揺さぶられていつもの仮面を外し感情を露わにする場面は出色。どれだけ心乱れても頑なに抵抗し続けるが、マルグリートが去った後彼女のいた場所に狂おしくキスをするなんてクゥーーーッ!ってなるじゃないですか。
最後に翻訳について一言。作中にドゥ トゥルーネ伯爵と言うのが出てくるが、このドゥdeというのは昔の貴族において階級と姓の間に付ける前置詞らしい。前置詞も姓に含まれるの?というのが疑問なのである。シャルル ドゥ ゴールとかカトリーヌ ドゥ メディチなんて例を見るとそれでいいかに思えるけど、もう一人作中にサンシール候爵というのが出てくるが表記はマルキ ドゥ サンシールであり先例に則るならこちらもドゥ サンシール候爵としなくてはいけないのではと思うのだが。モンテクリスト伯も原文はdeが付いてるが訳されてはいない。調べてもいまいちピンと来ないのでエロい人に教えて欲しい。