1999年のBBCドラマ版はNHKでやってたから知ってる人いそうだけど、1982年イギリス製作のドラマ版はどうかな?日本では紹介されてないので殆ど知られてないけど、海外のサイト調べると紅はこべの映像化作品と言えばまずこれ!と言うくらい有名らしい。米アマゾンではこれを書いてる時点で767件中4.8という評価!購入するのに海外のアマゾンを使うしかない(日本のアマゾンでも不可能ではないが値段が恐ろしく高い)、せっかく手に入れてもそのまま日本のDVDプレーヤーでは再生できない、もちろん日本語字幕はない(英語字幕を頑張って読むしかない)という制約があってもオススメしたい!これは絶対見るべき!見ないと損するよ!!
内容は1巻の「紅はこべ」と4巻の「エルドラド」をミックスしている。どちらも読んだ上で判断すると、原作のいいところをうまく組み合わせたなという印象。かつ、原作の矛盾点や突っ込み所をうまく補完している。例えばマルグリートのやってる事って「ヨーロッパ1の才女」には見えないんだけど、ドラマ版では元々の設定を崩す事なく細かい所が変わっていて彼女の「落ち度」をカバーしている。またショーヴランがマルグリートに気を寄せているという設定はこのバージョンが初で、ミュージカル版もこれを参考にしたのかなという気がする。この方がパーシーとショーヴランの関係も緊張感が増して効果的だなと思った。あと大きな特徴としては、原作にはないパーシーとマルグリートの出会いが描かれているところ。これが原作の端々で少しだけ語られるエピソードをうまく膨らませていて「きっとこんな感じだったんだろうな」という風にまとまっている。だから細かい所は変えてきてるけど原作リスペクトは強く感じる。
そして何よりパーシーがかっこいい!パーシーを演じているアンソニー・アンドリュースがすごいんですよ!上品な貴族の役が得意で本人はそういうイメージが付くのを嫌がったらしいけど、立ち居振る舞いから服の着こなしまで絵になっててあの雰囲気は誰にも出せるもんじゃない、そういう役を期待されるのも頷けてしまう。それに加えて演技もすごい。パーシーという人物はちゃらんぽらん貴族と冷静沈着で有能な紅はこべという二面性あるキャラクターなので難しい役どころだと思うが、どちらのキャラも見事に演じ分けている。原作の「眠たげな目と気だるげな口調」というのがピンと来なかったけど、このパーシーを見て「そうそうこれだよ!」ってなった。特にちょっとしたジョークを言う時に目を剥く仕草がチャーミング。ショーヴランをおちょくるところなんか見ているこちらも「イラッ☆」とするくらい。この辺本家イギリス製作だけのことはある。ただしとてもイヤミったらしいのに下品ではなく育ちの良さが窺えるのはさすが。一方でマルグリートを口説くところは情熱的で甘やか。そして彼女の「事件」を聞かされた時の動揺ととっさに取り繕う様子、彼女の前で道化を演じていても問い詰められて仮面を外しそうになるところ、英語が聞き取れなくても手に取るようにパーシーの心情が読み取れる。相当きめ細かく作り込まれていてかなり研究したんじゃないのかな。
対するマルグリートはジェーン・シーモア。昔「西部の女医 ドクタークイーン」というドラマに出てた人ですな。とても美しい。海外の感想を見るとパーシー、ショーヴランに対して評価が少し劣るものもままあるんだけど、なかなかどうしていいではないですか。第一「イギリスドラマの法則」を回避している。説明しよう!「イギリスドラマの法則」とは、絶世の美女という設定の割に平凡な顔立ちの女優がしばしば起用されるという私が勝手に考えた法則だ!最近で言うとダウントンアビーとか…まあいいや。とにかくジェーン・シーモアのマルグリートは美しくて芯が強くて賢くて「これならパーシーに愛されるだろうな」という説得力を十分持っている。
パーシーの敵役であるショーヴランはイアン・マッケラン。この人は有名ですね。悪役としての役割を十二分に発揮し、パーシーと互角に張り合っている。マルグリートの愛情を得られず、革命の理念まで共有できなくなったことが明らかになってからの嫉妬に駆られた表情は秀逸。彼女への愛と言っても、ショーヴランのセリフの中で革命政府への忠誠の方が優っていることが明示されており、そりゃ捨てられてしまうよなと。こういうところもうまいのよね。それでいて、部下には横柄な癖に上司であるロベスピエールには低姿勢なところや、パーシーにクラバット(タイのこと)をバカにされたせいか眠りこけるパーシーを見て無意識に胸元を直す一面もある。ただ残酷なだけでなくある程度は優秀(最後はパーシーにしてやられるけど)、嫉妬深くて人間臭い一面もある魅力的なショーヴラン像だと思う。
とにかく日本でこれがあまり知られてないのは本当にもったいない。ただ古さを感じさせないとは言え30年以上も経ってるからなあ…そろそろ新しい映像化作品が表れてもいいと思うんだけど。ブロンテ姉妹やオースティンやディケンズはあんなにあるのに!ホームズも多すぎだよ(新ロシア版はよかったけど)!