「CHESS THE MUSICAL」感想

観てきました!!すごく好きな作品なんですよね。どれくらい好きかと言うとまだ日本で上演される前ひょんな事からこの作品を知って、どうしても観たくて丁度旅行で行くことになっていたイギリスで全英ツアーをやってること知ってそれに合わせて計画立ててロンドンからノーサンプトンまで行って観たくらいです。でもその後何回かやった日本版は見逃してしまったんですが、今回別演出とは言え再演されるしかも出演者豪華と来たらヒャッホウ!となるじゃないですか。

でも他の人の感想覗いたら「パフォーマンスは最高。でも話の筋がピンと来ない」という意見多くて、それ分かるってなっちゃうんですね。確かにこの作品未完成感が強い。話詰め込み過ぎだしキャラの心の移り変わりが伝わりにくい。登場人物に観客が心を寄せるだけの余韻と言うか「間」を持たせずにどんどんストーリーが進んでしまう。息つく間もなくジェットコースターに乗せられている感じ。設定はすごくいいんです。冷戦でピリピリしていた米ソ関係を背景に代理戦争として開催されるチェスの国際大会。好きなチェスがやりたいだけなのに政争の具として利用され自由もなく雁字搦めなソ連代表アナトリー。親から愛されずチェスだけが心の拠り所で我が身を守って来た破天荒なアメリカ代表フレディ。ハンガリー動乱で父を亡くし祖国を追われた優秀なキャリアウーマンフローレンス。これだけのお膳立てが揃うとワクワクするじゃないですか!!フレディはプレッシャーからなのかアナトリーとの実力差を密かに悟っていたせいなのか(今回のバージョンではドラッグもやってましたよね)冒頭から余裕がなく周囲に当たり散らす。フローレンスは、セコンドとして公私にわたってフレディを支えてきたが(おそらく擬似母親としての役割も担っていたと思われる)大人の健全な恋人同士の関係とは言えないのでいつかは破綻する、そこへ父の仇の筈の国の男と(寄るべのない孤独感が共鳴したのか)図らずも愛し合ってしまう。すごく面白くなりそうでしょ!!それなのに生かしきれてないんだよ!!本当に惜しい作品。

じゃあこれが好きな人はどこが気に入っているのか?そりゃもう音楽ですよ!めっちゃいいの!!だってABBAのベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァースだよ!?「マンマミーア!」はABBAの既存の曲を使ったジュークボックスミュージカルだけどこれは一から楽曲を作ったんだよ?しかも作詞はあのティム・ライスだよ?いいに決まってるじゃん!あるいは私のような設定萌え関係性萌えしたオタクが出来の悪い我が子を見るような眼差しで愛しているのかもしれない。

だから一流のパフォーマー集めて歌唱力でぶん殴って観客を異次元に連れて行くのは正解だと思います。日本ではお馴染みになって来たラミン・カリムルーは来日してくれるたびありがとうと言いたい。「またラミン来るのー?」という意見には「さんを付けろよデコ助野郎!」と言いながらグーパンですよ。1幕の終わりの「Anthem」、イラン系カナダ人現在はイギリス在住という複雑な背景を持つ彼には特別な曲だし思い入れの深さが伝わる歌唱力。泌みるわー。2幕の「Endgame」での「NEVER!」の絶唱たるや。これが生で聴けるだけでもチケット代の価値あります。フローレンス役のサマンサ・バークスもぴったりだった。2012レミコンのエポニーヌとして有名ですよね(この時ラミンはアンジョ役で共演してるんですよね。ラミンアンジョのキラキラカリスマ性は目を見張った)フレディのルーク・ウォルシュも初めましてだったけどすごくよかった。キャリア的には先の2人の方が上だけど実力も格も全く見劣りしなかった。「Pity The Child」が泣かせるのよとにかく聴いてこれらの怪物みたいな海外俳優たちに日本人キャストが十分に張り合っていたのがまた嬉しかった。アービターの佐藤さんは私にとってはスカピンのプリンスオブウェールズ/ロベスピエールぶりだったけど立派に成長しましたね(お前何様だよ)。ジャンバルジャンの経験が彼を大きくしたのか、歌唱力は前から定評あったけど魅せる技術も更に向上したと言うか。スヴェトラーナのエリアンナさんはフローレンスとのデュエット「I Know Him So Well」もフローレンス、アナトリーとやり合う「Endgame」も全く臆せずこれまた見劣りしなかった。「ファントム」のコミカルな敵役が印象的だったので新鮮でした。意外に出番が多くて重要な?モロコフはクラシック畑から増原英也さんというバリトン歌手を連れて来たんですね。安定感があってこれもよかった。歌的にも重要なポジションなんですよねモロコフって。ちゃんとロシア語訛りの英語になってるのが面白かったですw アンサンブルもよかったです。よかったしか言ってないけど語彙力ないんで許してくれ。とにかく百聞は一見にしかずですよ!

だけど!!演出には物申したい。ニックさんパジャマゲームで恩あるけど遠慮はしません。まず全体的にコンサートぽかった。シンプルなのはいいけどもっと芝居寄りにしてもよかったよなーという印象。超個人的な感覚なので当てにならないけど、私が観て来た日本でのラミンの舞台、エビータとジーザスコンと比べても今回が一番ラミンが芝居に馴染んでいたと思えただけに。前2作よりも他の出演者との並びが自然だった気がするんですようまく言えないけどあと「One Night In Bangkok」とかもっとコテコテかと思ったらあっさり(まあやり過ぎると西洋人がアジアに抱くイメージも察せられて辛いのですがw)。それに自分は映像演出そんなに好きじゃないんだなということも気付いた。実は宝塚の「ファントム」も鼻に付いたんですよね。今回はその時ほどじゃなかったけど。また、これが一番重要なんですが説明端折った所あるよね!?お陰で???な観客多いみたいだぞ!アナトリーがなぜフローレンスを捨ててソ連に帰ったか?妻たちに説得されたからじゃないぞ。アナトリーが帰ればフローレンスの父親(死んだと思われたが実は生存して投獄されていた)を解放すると条件を提示され了承したからだぞ!アナトリーが帰国した後フローレンスはそれを聞かされて崩れ落ちるという訳なんです。今回はそれをフローレンスに説明する人物が人物ごとカットされたので説明も抜けてしまったのかも。つまりアナトリーはチェスの勝負には勝ったけれどフローレンスも自由も失ったということなんです。あと!フレディこのままじゃ卑怯者のままで終わって可哀想じゃないですか。これも元々は何だかんだで改心したフレディがアナトリーにソ連代表の対戦者の弱点を教えるんです。そのお陰でアナトリーは勝利したんです。でも今回のように端折られたバージョンも過去に上演されたんだよなー。確か私がイギリスで観たのもそうだったような?(よく覚えてないので確証ない間違ってたらすまん)この作品WEBWでもプロットが違っているし、演出家によって大きく手直しされている(アナトリーの子供が出て来るやつもある)ので決定版が存在しないのが話をややこしくしてるんですよね。でも個人的にはフレディにシンパシーを感じるのでチェスプレイヤーとしての矜恃と救済を与える展開の方がよかったなー。

ここまで書いてはたと気づいたけどもしかして今の若い人って冷戦を知らない!?い、いや私も知らないよ?(すっとぼけ)。第二次世界大戦後資本主義のアメリカと共産主義のソビエト連邦が対立してあわや核戦争かと当時の人はガクブルだったのです。私はまだ子供だったので何も分からなかったけど、フィギュアスケートのTV中継を見てると西側諸国と東側諸国のジャッジが付ける点差がえげつないことになっていたのは知ってました(昔はジャッジの国籍の下に点数が表示される形式でそれぞれ対立する陣営の国の選手が出場すると片方は高くもう片方は低く付けるのが習わしになっていたそしてその傾向は今でも続くげふんげふん)。更にハンガリー動乱となると日本人にとっては何のこっちゃい?ですよね。私も「カチンの森」と混同していたのでwikiで調べました。以下wikiのコピペ。「19561023日ハンガリーの市民が政府に対して蜂起した。彼らは多くの政府関係施設や区域を占拠し、自分たちで決めた政策や方針を実施しはじめた。ソ連軍は19561023日と停戦をはさんだ1956111日の2回、このような反乱に対して介入した。1957年の1月にはソビエト連邦は新たなハンガリー政府を任命し、ハンガリー人による改革を止めようとした。蜂起は直ちにソ連軍により鎮圧されたが、その過程で数千人の市民が殺害され、25万人近くの人々が難民となり国外へ逃亡した」だそうです。フローレンスはこのような試練を経ているわけですね。劇中でも一応説明されるけど冷戦中の空気を知ってる人とそうでない人とでは受け止め方が違うかも。とは言え日本は西側陣営に付いてアメリカと一緒にモスクワ五輪ボイコットしたことはあったけど、当事者意識はそれ程高くなかったと思う。だから政治的な背景が強いこの作品は長らく本邦で上演されなかったのかしらと勝手に推測しています(初演が1984年日本での初演が2010年代に入ってから)。

他にも分からない事があるんですよ。1970年代の話のはずなのに今回は1985年となっていたり(でもこれも前述したように色んなバージョンがあるから間違いとは言えない、あーっ面倒くさい!!)、あとパンフのネタバレになってしまうんですがルークがフレディについて「彼は自分のセクシュアリティに疑問を持っている」と語っていたけどそんな場面あったっけ?でもこれについては前にイギリスで観た時もフレディが2幕で真っ赤な口紅を塗りたくって男性にブチューする場面があったので確かにその通りなんでしょうがそんな説明があった記憶がない。今回席が遠くて字幕追いながら舞台見るのしんどかったので見逃したかもしれないです。これから観る方特に後方席の方はオペラ必須だと思います。シアターオーブみたいの想像してたら今回は舞台奥に字幕表示装置があって文字が小さいんですよね。内容も入り組んでるだけに理解するの時間かかるし。私はもう一回チャンスがあるので前回見落とした部分を拾ってこようかと思います。また新しいこと気付いたら追記するかも。

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