宝塚版「スカーレットピンパーネル」(追記あり)

自称「紅はこべの魅力を伝える会」会員の私としては宝塚版を見とかなくては話になるまいと思い先日発売されたばかりの「スカーレットピンパーネルBDボックス」を買った。なぜBDボックスかと言うと評判のいい初演版を見たかったから。我が家にはBDプレーヤーがないのだがどうやらパソコンでなら見られる環境があるらしいことが最近判明。正直「2万か…割安(初演再演合わせて本公演3つ新人公演2つ)なのは分かるがコレクターではないのでそこまでは…」と思ってたが、結論から言うと初演も再演もどちらも違った魅力があって面白かった!

実は月組バージョンは映画館で見てるんですね。その頃BW版のサントラを聴きこんでいてぜひ舞台の形で観たいなあと思ってた矢先、近くの映画館で上映すると聞いて「そんな事あるんだ?!」とびっくりしつつもせっかくのチャンスなので行きました。その時も満足した記憶はあるんだけど内容結構忘れていたことに今回気付いたwただミュージカル本編が終わったら歌とダンスのショーが始まって当時宝塚のこと何も知らなかった私は「何が始まったんだ?」と相当驚いたのを覚えているw思わず他の観客をキョロキョロ見回したけど皆平然としているのでますます???となったw

「エリザベート」の時も思ったけど小池修一郎の潤色はすごいな!と再確認。レベルの高い個人技でグイグイ押し通すのがBW版(梅芸版とほぼイコール)なら、宝塚版は丁寧で細かいところまで気配りが効いている。私は生で見たのが梅芸版なのでそちらも好きだけど宝塚版を先に見た人は梅芸版が物足りないと思った人もいると思う。それ位別物になっている。そこで宝塚版の潤色がどうなされているか梅芸版と比較しながら簡単に列挙しますね。当然の如くネタバレ満載なので注意して下さい。

①ストーリーの変化
まず目に付く変化は宝塚版では王太子救出というビッグプロジェクトが追加され、よりスケールの大きな話になっている所である。これは前に書いたように原作4巻「エルドラド」を参考にしたのかなと思う。また梅芸版はパーシー、マルグリート、ショーヴランの3人に出番が集中しているけど、小池氏は座付き作家の手腕を発揮して多くの演者に活躍の場面を与えている。例えばピンパーネル団のメンバーにも恋人をあてがってデュエットする場面を足したり、マリーをアルマンの恋人にして出番を増やしたり、一幕最後の「The riddle」では元々は3人だけで歌うものだったのが、スカピン団からフランス勢からアンサンブルも総出の大合唱となり目にも耳にも豪華な作りに変わった。

②紅はこべとフランス革命政府の立ち位置や時代背景についての説明
これは想像だけど、フランス革命を肯定的に捉える人が多い中で「スカーレットピンパーネル」を上演するのは相当勇気が要ったんじゃなかろうか?しかもベルばらで有名なあの宝塚でですよ?!それを考慮したのかは知らないが、梅芸版ではいきなりコメディフランセーズの場面から始まるのに対し、宝塚版では革命の狂乱に酔いしれる民衆とギロチンで多くの命が失われるフランスの状況が描かれ、その中でパーシーが「ひとかけらの勇気」を歌う場面に変更されている。その結果、革命の名の下貴族というだけで罪なき人が殺されそのカウンターとして存在するのが紅はこべという背景が早くも観客にインプットされる。つまり原作を知らない人でも紅はこべ=善、革命政府=悪という図式が理解できて作品世界にすんなり入り込めるようになっているのだ。それだけでなく、後の場面では革命は成功したはずなのに一向に生活が楽にならず不満を溜める民衆と焦燥感を募らせる革命政府の姿も描かれる。これは原作にもない描写だが物語に厚みと緊迫感が加わっていいなと思った。

③曲の追加
宝塚で上演されるに当たって「ひとかけらの勇気」という曲が追加されたと過去記事で書いたけどちょっと間違ってました!何と3曲も追加されてたのね、ワイルドホーンさん太っ腹だな!他の2曲はパーシーとマルグリートが夫婦の断絶を歌うデュエット(ごめん名前分からない)とパーシーとショーヴランそれぞれの理想と夢を歌う「栄光の日々」。「ひとかけらの勇気」は劇中で3回、それも大事な場面で使われていて、1回目はパーシーの秘めた信念を表し、2回目は絶望のどん底にいる王太子を奮い立たせ、3回目はパーシーがマルグリートの真心に気付く効果を果たしている。「栄光の日々」は最終決戦間近で使われ、二人とも栄光の日々をもう一度と歌うのに一人は過去にすがりもう一人は未来の希望を信じるという対照性が際立っている。そこに民衆のコーラスが被ってとても印象的なシーンに仕上がっている。そのせいで元々は単純明解な冒険活劇の印象が強い作品(いや、私はこのままでも十分好きだけど)に深さと奥行きが出ているのだ。日本以外でもこのバージョンにしたらもっとウケるんでないかな?特に「ひとかけらの勇気」なんて宝塚版では代表的な曲になってるじゃん。この曲がない「スカーレットピンパーネル」なんて考えられないという人だっていると思うよ。

この先ラストシーンのネタバレになるので再度注意喚起&改行

 

他にも細かいところを挙げればキリがないんだけど、最終決戦の場面も宝塚版の方が個人的には好き。梅芸版では(作戦だから仕方ないとは言え)フェンシングでパーシーがショーヴランに負けるのがなあ。しかも去年見た梅芸版の舞台ではマルグリートも参戦しており(しかも二刀流!)彼女が一番うまいでやんの。このままマルグリートがショーヴラン負かす展開でいいよと思ってしまったwこれはマルグリートを演じた安蘭けいさんが宝塚版初演でパーシーを演ったから特別に追加された場面だと思うのだけど、フェンシングのシーンは宝塚版の方が遥かに上手でそれに比べれば梅芸版はチャンバラレベル。ちょっと男子しっかりしなさいよ!!状態だったw(因みにラストシーンは1982年ドラマ版の影響が大きく見受けられる。ドラマ版でパーシーを演じるアンソニー・アンドリュースとショーヴランを演じるイアン・マッケランの決闘のシーンはかなり見応えある。ショーヴランがマルグリートを好いているという設定もドラマ版が初出だしBW版のスタッフはこれをかなり参考にしたんでないかな)

ここまで宝塚版のいい所を褒めてきましたが突っ込み所もあります(ここで「王太子の救出簡単過ぎじゃね?」とか「ロベスピエールはグラパンを簡単に信用し過ぎじゃね?」とか核心的なことは言いませんよ、それは紅はこべという作品そのものを否定することになるからw)。マリーの元にいるマルグリートをショーヴランが訪ねた時王太子がのこのこ一緒に出てくる所なんかのんきすぎだろ!!と思ったし、マルグリートが「ひとかけらの勇気」を歌った事をショーヴランに責められた時それじゃパーシーが紅はこべだってすぐにバレるだろ的な回答してるし、フェンシングのシーンでパーシーが嵌めている手袋がどうしても掃除用のゴム手袋に見えてしまって気になるなど色々あるけど、ここまで来ると逆に「こまけえことはいいんだよ」でなければ紅はこべとは言えないのかなという気までしてきたw

とにかく何が何でもBW版!と思ってたら宝塚版もなかなか負けてないぞというのが分かっただけでも大発見でした。サー・パーシーというキャラクターは宝塚の世界にうってつけのヒーローだな!これからも再演が繰り返されるんだろう。今年は梅芸版も再演されるし紅はこべがもっと広まるといいなあ。これに乗じて続編翻訳されたりしないかしら(希望的観測)…

(10/9 追記)ちょっと誤解受ける書き方しちゃったかなーと思い補足。梅芸版でも「ひとかけらの勇気」が歌われる場面あるんですよ。でも歌詞が違うし歌われる場面も違う。話の流れでさらっと歌われたのでそんなに印象に残ってないんですよねw元々BW版にはなかった曲でそのBW版を受け継いだのが梅芸版なので宝塚版で追加になった「ひとかけらの勇気」を後から入れたけど取って付けた感になったと言うか。いい曲なんだからもっと強調すればよかったのに。やはりここはこの曲を3回も要所に配置してはっきりと印象付けた小池氏がすごいと思います。あと1幕最後の「The Riddle」で梅芸版は3人だけと書いちゃったけど最近公開になった練習動画見たらアンサンブルも出ていましたね。カンパニーの人数が少ないからこれも印象薄かったらしい(BW版は本当に3人らしいけど)、宝塚版みたいにこれでもか!って程やってくれれば覚えるのだけど。時間経ってから書いてるから結構記憶と違ってるところあるな。ごめんちゃい。

“宝塚版「スカーレットピンパーネル」(追記あり)” への2件の返信

  1. zasshokuさん、こんにちは。
    こちらの記事は以前に読んだのに、訂正があるということで見たらちゃんと覚えてなくて、またスカピンBlu-ray観たくなりました。zasshokuさんが購入されたのと同じBOXです。
    このBOXでは大量の稽古場風景を見ることが出来て、2時間半くらいの舞台のために膨大な練習量をこなすジェンヌさんの姿にいつも涙を誘われます。思い出すだけで泣けます。
    今年の星組再演を前に原作「紅はこべ」を読んだとき、「これだけ?続編とか無いの?」って思ってたのです。雑食さんが許可取って翻訳してくれたらな。
    でもすでに、続編の内容を紹介して下さってるのでありがたいです。

  2. 稽古の映像私も好きです。あの舞台がどうやって作られたか非常に興味持って見ました。貴重な記録ですよね。
    紅はこべシリーズは100年前の作品なので許可を取らなくても勝手に翻訳してOKなのです。実は前に3巻まで翻訳して下さった方がいたのですが現在はリンク切れになってしまい…オルツィさんの文章は一文が長くて読みにくいです。正直パーシーへの愛がないと読むのキツいw
    実は本文中でちょっと触れた1982年ドラマ版の字幕付けはやったんですね。どこにも公開できないので完全な自己満足w楽にドラマを楽しみたいと思い頑張ったのですが、完成する頃にはすっかり台詞が頭に入ってしまい日本語字幕なくても分かるようになったので意味がなかったという…wおまけに家族が寝静まった夜中に作業していたので体を壊してしまいましたw

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