高慢と偏見が広く愛される4つの理由

今まで散々紅はこべや新ロシア版ホームズなどについて語ってたけどようやくブログタイトルにふさわしい話題。最近ネットコラムなどでよく見かけるタイトルをもじった表題にしてみたけど格調の欠片もないですな。

先日新潮文庫版(ここでは「自負と偏見」というタイトル)の翻訳が新しくなった事を知った。旧訳バージョンの自負と偏見は昔買ったけど、引っ越しに紛れてどこかに行ってしまったというのもありまた買ってみることにした。amazonの評価を見ると様々な出版社から出ている翻訳が比較されておりこのバージョンもまずまずらしい。amazonの評価って時々博識な論評に触れることができて面白い。

実際に読み返すのは何年ぶりだろう、内容は知ってるはずなのにやめられなくて睡眠時間削ってまで読んでしまった。いやーやっぱり面白い!オースティン作品の中で一番人気なのも納得できる。改めて読むと新しい発見もある。そこで何がこれ程我々を引きつけるのか、勝手につらつら考えたことを思いつくままに箇条書きで書いてみます。

その1 エリザベスの性格が現代人に共感されやすい
オースティンはヒロインがどんな性格でもラブストーリーに落とし込めようというチャレンジをしていたのか知らないが、「エマ」は作者自ら「私しか好きになる人はいない」と言わしめるヒロインだし、「ノーサンガー・アベイ」は積極性のない平凡な女性が主人公である。しかし「高慢と偏見」におけるエリザベス(以下リジー)は一番読者の共感を得やすいヒロインではないだろうか。そこそこ美人、明るく聡明で茶目っ気があって高い身分の相手でも物怖じしない。頭は切れるがそれをひけらかさず卑屈になることもない。リジーが19世紀初期の人間であっても、価値観が今とそう変わらず現代の世界にすっと溶け込んで生きていけそうな感じがする。つまり読者が喜んで感情移入できるキャラってことだ。それでいて完璧超人ではなく自分の思い込みに足元をすくわれるという失敗もある。またそこが親しみやすさにつながる。

その2 ミスター・ダーシーも成長する
オースティンの他の作品はヒロイン目線で話が進むせいもあるが、ヒロインのやらかし→反省→両思いというパターンが多いように思える。これもそのパターンなのだが、他と違うのは男性側も同じ失敗をしてそこから成長していることである。タイトルの「高慢と偏見」にある「高慢」というのはミスター・ダーシーの、「偏見」はリジーの短所を指している。今回読み直して新鮮な驚きだったのが、ミスター・ダーシーの1回目の告白が結構ひどいwということ。「家族や財産の問題をごまかさず正直に伝える俺マジで誠実(キリッ)」と本気で思う辺りこっぴどく振られてお灸据えられろwって思う。この辺現代に至るまで場所を問わず世の男性の陥りがちな過ちなのでは。しかし最初はむすっとしててとっつきにくかったのがリジーに欠点を指摘されて修正していく様子がしっかりと描かれている。ヒロインと結ばれるべき王子様としてただ待つ身ではなく、ヒロインと同様に短所を克服して成長するミスター・ダーシーの魅力は間違いなくこの作品の魅力に直結していると言えると思う。

その3 脇キャラが立っている
これは他のオースティン作品にも共通するけど脇役キャラが相当ぶっ飛んだ性格をしている。リジーの母のミセス・べネットを始め、末妹のリディア、ミスター・ダーシーと因縁の関係であるミスター・ウイッカム、リジーの従兄弟のミスター・コリンズなどなど…そしてこれらぶっとんだキャラがあれこれやらかすんだけど、彼らは意識してやってる訳ではないのに結果的に主人公二人の恋の結末にうまい具合に作用してくる辺り流石オースティンさん最高のストーリーテラーだぜ!となるのだ。普通主人公達の恋路が脇キャラに阻害されるとイライラするところがこの作品ではそんなストレスはない。それどころか実際に近くにいたら勘弁だけど彼等は不思議に愛嬌があって憎みきれないのだ。もちろんリジーの姉のジェーンやミスター・ダーシーの友人であるミスター・ビングリー、親戚のガードナー夫妻など常識人も配置されてるからバランスは取れている。ぶっとびキャラに振り回されつつもあるべきところに収束していく筋立てが本当に素晴らしい。

その4 何だかんだ言って恋愛ラブコメの原点だよね。
これを最初に置くべきだったかも。もちろん恋愛ラブコメって褒め言葉ですよ。それ位エンターテイメント的にも優れているということ。別の言い方をすれば恋愛ラブコメとして楽しんでいるのに文学作品を読んで賢くなった気分にも浸れるお得な作品wサマセット・モームや夏目漱石といった文豪と呼ばれるおっさんが我々と同じく高慢と偏見を読んで萌えていたのかと想像するだけでおかしい。だから英文学科でこの作品を取り上げたとか授業でBBCドラマ版を鑑賞したという話を聞くと「それ勉強じゃないじゃん!」と心底羨ましくなる(勉強イコール苦行と刷り込まれた人間の発想)。

以上4点を挙げてみたが他にももっとあると思います。BBC版ドラマについてもいつか言及したいし2005年の映画版の話もしたい。最近の「〜ゾンビ」もまだ見てないから見てみたい!この作品一つだけで話が尽きないのはそれだけ語るべき魅力があるからだろうな。

“高慢と偏見が広く愛される4つの理由” への2件の返信

  1. 待ってました!私が持っているのも18年くらい前に購入した新潮文庫です。こちらの記事を読んで早速新しい訳本に興味を持ったのですが、表紙の絵が少年少女向け図書の雰囲気なので躊躇してます。私はBBC版ドラマがオースティンとの最初の出会いで、原作本とこのDVDは繰り返し読んだり見たりしています。雑食さんの頭の中にあるネタは尽きないことと思いますので、今後の記事のアップも楽しみにしています。

    1. お待ちいただきありがとうございます。ブログタイトルにふさわしい記事がようやく書けましたw
      高慢と偏見は新潮文庫以外にも複数の出版社から出ていて翻訳にもそれぞれ個性があるようです。amazonの書評にその辺の詳しい分析があるので参考にされてはどうでしょうか。新潮文庫版は訳がくだけすぎているという指摘もありましたが私は許容範囲でした。一番新しいのでかなり現代ぽいですが雰囲気は損なわれていないと思いました。
      私もBBCドラマ版大好きです。海外の反応を見るとミスター・ダーシー=池でずぶ濡れみたいなイメージになっていて、本当は原作にないシーンなのにみんなの認識それなんだwwとおかしくなりました。

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