マイ・フェア・レディについての色々 その2

さて、ここからは舞台の話になるんだけど、ちょっと調べてみると英語圏だけでなく世界各国で上演されているのが分かる。イギリス特有の階級制度とか社会の仕組みとか理解できてないと分かりにくい話なのに、イライザのセリフにある「レディと花売り娘の違いは本人がどう振る舞うかでなくどう扱ってもらえるかで決まる」に代表される強烈な風刺に隠された主題は世界共通だからかな。あとなんだかんだ言って皆イライザとヒギンズに魅了されてしまうから応援せずにいられないというのもあるかも(原作者の意図とは大きく外れてしまった感もあるが)。

(写真はジュリー・アンドリュースの舞台のもの)

ヒギンズとイライザのレッスンで出てくる発音練習の例文は「ピグマリオン」にもそのまんま出てくるんですね。「The rain in Spain〜」も「In Hereford,Hartford, and Hampshire〜」も「How kind of you to let me come」も、ここまで同じだったのかと驚いた。その中でも翻訳者泣かせなのが「The rain in Spain stays mainly in the plain」だと思う。これは[ei]を[ai]と発音するコックニー訛りを矯正するための例文だけどそのまま日本語に訳しても意味が伝わらない。でもこれは日本だけでなく英語圏以外の共通の悩みらしくて他の国でも苦労しているようである。ちょっと調べた所だと、ブラジル(ポルトガル語)では
Atrás do Trem as Tropas vem Trotando
となっている。「電車の後ろに軍隊が駆けて来る」みたいな意味らしい。ここでは音が大事なのであって意味はどうでもいいのだけど。読めないが何となくTの音が繰り返されているのが分かる。
続いてはドイツ語。
Es grünt so grün,wenn Spaniens Blüten blühen
これは「スペインの花が咲く時一層緑になる」みたいな意味。これもüが繰り返されている。
日本では昔から断続的に舞台が上演されているけど2013年から歌詞が変わった。それまでは英語の直訳だったけど、新訳ではコックニー訛りを江戸弁に置き換え、江戸弁の特徴である「ひ」が「し」となるのを利用したらしい。
日は東、日向にひなげし、品格のある広い額
う〜ん!よく考えたなあ!相当苦労したんだろう!大したもんだと思うけどこれだと今度はアスコット競馬場の場面でボロを出さぬために話題を「健康と天気」に限定したことと繋がらなくなるんだよね、難しい!かと言ってじゃあお前が代わりに考えてみろと言われても妙案もない。直訳よりは遥かにいいしよく練られていると思う。

ここで我が愛するアンソニー・アンドリュースの話題を出してもいいですか?この作品に興味を持ったきっかけの一つが彼がヒギンズを演じていることを知ったからなんですね。そこで2012年のプロムスでセミ・ステージの形で披露したものを見つけてヘビロテしました。ラジオで放送されたので音源しか残っておらず「おのれ〜BBCめ〜」とは思ったんですがまあないよりは遥かにマシってやつで。音だけの情報だけどそれでも皮肉屋で偏屈でユーモアに溢れた英国紳士なヒギンズなのは分かった!そう!いくら憎まれ口を叩いてもどこか愛せる要素を持たなくては(私の中では)ヒギンズとは言えないのだ!それが音源だけでも伝わったので流石アンソニー・アンドリュースだなあと思った次第です。中でも一番お気に入りがイライザ、ピッカリングと歌う「The rain in Spain」。それまでの閉塞感からぱあっと世界が開けて喜びが弾け飛んでいるのがよく分かりこちらまで彼等の嬉しさを共有できること請け合い。興味を持たれたら探して聴いてみて下さい。さて、彼のヒギンズを色々探し漁っていたら2015年にアメリカ最大の野外劇場Munyという所で上演されたバージョンの動画を見つけまして、それ見たらラストシーンが我々が知っているものと違うんですね。イライザが戻ってきた事を知ったヒギンズが椅子に深く腰掛け帽子を目深にかぶり「スリッパはどこに行った?」と尋ねるのが元々のバージョンだが、ここではヒギンズとイライザが向き合いお互い腕組みをして一瞬睨み合った後に大笑いするというラストになっている。最初見た時にびっくりしたけれどウエストエンド再演ではこのバージョンになっているという情報をネットで拾ってそうなんだ?とまたまた驚きました(Munyはアメリカだけど)。これだと恋愛的な匂いよりも同志愛みたいな感じが強くなるのかな?Muny公式の動画に一瞬映っているので挙げときます。

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