2人のメグレ

よく海外ドラマを録画するのですがなかなか見る機会がなく溜まる一方で…そんなある日たまたまAXNミステリーを付けてたらグラナダTV製作の「メグレ警部」をやってて面白くなりそのまま見てしまった…真夜中だったのに。そういやBBC版のメグレ録画したままではなかったか!と気づきこちらもこの機会に一気見しました。ついでに全12回もあるグラナダ版も録画して…(こうしてまた未見録画が増えていくのであった)

先に見たグラナダ版はこう言ったら語弊があるけど「ほのぼの」していて推理物なのに人情物を見ている気分になる。情に厚く、愛する妻がいて、頼れる部下がいて、上司は嫌味だけどのらりくらり交わしててみたいな。世界観をぶち壊すようなサイコなキャラもいないので(犯罪者は別として)ある意味安心して見ていられる。イギリス製作だから当たり前だけどとてもイギリスドラマらしい。

それに対しBBC版は同じ作品でこうも違うの?と言うくらい雰囲気が別物!「メグレわなを張る」という同じ作品を見比べたけど殆ど筋は同じなのにここまでイメージが変わるのかと驚いた。あっちが人情物ならBBC版はハードボイルド。情に厚く妻に愛され部下にも信用され…てのは同じだけど全体的に重めで陰影の濃い雰囲気になっている。グラナダ版のメグレは愛嬌もあってユーモアも滲み出ているが、BBC版のローワン・アトキンソンのメグレは感情を表に出さない。普通の人にも犯罪者にも同じ態度で向き合うが、犯罪者に対しては眉一つ動かさず淡々と「お前は残りの人生を後悔し続けて生きるんだ、処刑される日までな」みたいな事を言ってのける所が怖い。一方で被害者に対しては態度は淡々としてても人情味が溢れている。このギャップがたまらないのだ。

そう!大事な事書き忘れていたけど「Mr.ビーン」でお馴染みのローワン・アトキンソンなんですよ!「表情のアップになった時いきなり変顔されたらどうしよう」などと心配していたのも開始数分ですっかり消え、どこか孤独の影を背負ったシリアスなメグレに惹きつけられました。そうだよ!今まで気付かなかったけど彼実はなかなかの2枚目だったのだよ。昔チラ読みしたインタビューで「悲劇より喜劇の方が演じるのが難しいのに悲劇役者ばかり賞賛される」みたいなこと語ってたし、何となく素は気難しげな人のような気がするので(そういう意味で私の中では志村けんと同じカテゴリー)今回メグレを演じたのは周りが想像する程難しくなかったのでは?

この辺からネタバレしていきますよ!

 

 

 

 

何と言ってもE1の「メグレわなを張る」ではメグレにかかるプレッシャーが重すぎて見ているこちらまで頭の奥がキリキリするほど緊張してしまった。上司からマスコミから一般市民から被害者の遺族からあれやこれやと圧力をかけられて、感情を表に出さないまでも確実に追い詰められるメグレがいたたまれず、面白いと同時にとてもストレスフルだった。これがグラナダ版のマイケル・ガンボン(そう!こっちは2代目ダンブルドア先生なのだ)のメグレだとプレッシャーをかけられても長年の経験と年の功のせいかどっしり構えていて、そこまで悲壮感を感じさせない。犯人達のサイコぶりもBBC版の方がキテる。特に犯人の母親ね!個人的な事で申し訳ないけど「ああこういうのいたなあ…」と古傷がうずいて辛かった。当然メグレも相当しんどかっただろうと思う。特にラストの3人の激しい応酬は迫力満点。なんかスゲーもん見たなあという気分になった。(今調べたら母親役は「ハリー・ポッター」シリーズのペチュニアおばさんだった!ここでも毒親役ですか!)

という訳でBBC版はあざといと言ってもいい位人の心の闇にくっきりフォーカスを当てている。1950年代の再現も見事だし、このご時世にも関わらず気前よくパイプをプッカープッカーしてるのも好感持てる。でもメグレ自身の雰囲気はでっぷりした体型も含めグラナダ版が原作に近いのかなあ。だから原作既読者はBBC版を見てコレジャナイ感があったかもしれない。

これだけ2つのドラマの特色が違うと原作を確認したくなるもので、電子書籍で(何と紙媒体は絶版らしい!)「モンマルトルのメグレ」を読んだのだけど、人間の描写が緻密なのが驚き。ちょっとした証人でさえそれまで生きてきた人生が垣間見えて来る。人が記号でなく生々しく浮き上がって来るのよね。愚かでやりきれない人間の業みたいなものを見せつけられる。ただ原作のメグレはグラナダ版ともBBC版とも少し違う気がした。他の作品も読まないと分からないけど。

今回2つのメグレ作品を見比べたけどどちらがいいかと聞かれると難しい。私は普通安心して見られるドラマが好きなんですね。奇をてらった物やエグい作品は敬遠してしまって。でもBBC版はストレス溜まるのに目が離せなくて見た後のカタルシスが大きく、(E1で)カーテンを開け放すシーンに象徴されてるように開放感が半端なかった。ただグラナダ版の安定さも捨て難く甲乙付け難いです。これらはどちらもイギリス製作、原作はフランスでフランス製作のドラマもAXNミステリーでやってたけれど丁度その時見逃してしまって…メグレ一挙集中放送の時にチェックしとけばよかった。こちらの方が原作により近いのかな。フランス版を見たらまた感想変わるかも。グラナダ版は2017年8月現在AXNミステリーで放送しているので興味を持たれたらぜひぜひ。

 

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