紅はこべ3巻「神出鬼没の紅はこべ」

前に続編の4巻「エルドラド」の感想を書いたのですが、2巻と3巻をすっ飛ばしていたんですね。2巻はパーシーの出番少ないしなあ…と思ってたけど、3巻についてはショーヴランとの一騎打ち再びなのに記事を書かないのはもったいないと感じてました。そこで今回は3巻の「神出鬼没の紅はこべ」(原題 Elusive Pimpernel)を紹介しようと思います。

初っ端からショーヴランがある人物と夜遅くに密談しています。場所はかつての宮殿のマリー・アントワネットの居室。相手は何とロべスピエール!原作では初めての登場です。革命政府は悪という作品世界なのでここのロベスピエールは酷薄でキレ者と言ったイメージ。ネチネチと「で?紅はこべを捕まえられなかったって?」とショーヴランを責め立てる。たじたじなショーヴランだがそれでも頑なに紅はこべの正体を明かさない!その理由は個人的に恨み骨髄で何としても自分の手で捕らえたいと執念を燃やしてるから!そんなの集団の論理にかかれば「お前の事情なんて知らねーよ」で即ギロチン行きだと思うのですが、ロベスピエールはショーヴランの気骨を評価してるところもあるのか「まあお前以外にイギリス事情に明るい奴もいないし」などと言ってもう一度だけチャンスを与えます。ショーヴランには腹案があった。今度は彼から紅はこべにを仕掛ける番…

その頃リッチモンド(ロンドン郊外でパーシーの邸宅があるところ)では祭りが催されていた。色んな見世物小屋が軒を並べ賑わう中、人々の目を引いたのはギロチンを模した人形劇。マルグリートはなぜか胸騒ぎを覚えながらも吸い寄せられるようにその小屋の中に入って行った。そこで旧知のフランス人女優デジレ・カンディーユと出会う。それがショーヴランの罠とも知らずフランス人同胞との再会に喜ぶマルグリート。窮状に陥っていると言う彼女に、自分達夫妻が主催するパーティに招待しプリンス・オブ・ウェールズの前で歌うように提案する。するとデジレは革命政府の保護者がいると語り、マルグリートにショーヴランを紹介した…

なんか面白そうでしょう!?ここでは最初からパーシーとマルグリートがラブラブな点も見逃せない。2人きりになった所でパーシーの気怠げでうつろな表情が影を潜め情熱的で端正な顔を覗かせる描写はとても細かくてやはり女性作家だなあと思うし、私もこういう所に萌えてしまう。特にパーシーがギロチンの見世物小屋を目にした時の反応で、一瞬だけど厳しい顔つきになり拳を握り締めるという場面があり、彼の真の姿がちらと垣間見えるのがおいしい。

さて、まんまとサー・パーシー夫妻のパーティーに潜り込んだショーヴランとデジレ。デジレの首には豪華なネックレスが着けられていた。これは2巻で紅はこべに救出されたジュリエット・マルニーが信頼を寄せるフーケ神父に預けたもの。革命政府は神父からマルニー家が所有していた高価な宝飾品を取り上げ、神父を投獄したのだった。同じくパーティーに招かれていたジュリエットはそれを見て当然怒りを露わにする。そこに付け込んだデジレは侮辱されたと騒ぐ。ここまでショーヴランのシナリオ通り。そしてショーヴランはこれを口実にパーシーに決闘を挑むのだった。

ここんとこ2巻を読んでないと分からない所だが、前の話が関係してるのはここだけなので未読でも支障はない。イギリスでは決闘は法律で禁止されている。すると必然的に決闘が認められているフランスで行うことになるがパーシーはそれを承諾する。不安で胸が張り裂けそうなマルグリートをよそに、サイコロで勝った方が時間や場所や武器を決めようなどと何事にもふざけた態度を取るパーシー。慇懃ながらもショーヴランにしか分からない嫌味をちょこちょこ挟むとこなど本当に意地悪いwこういうとこイギリス人なんだなと思うwこんな事で逆上するようなショーヴランではないのですが。

パーシーは当然向こうの意図を察していてわざと罠にかかりに行ったと分かりそうなもんだけど、心配で心配で周りが見えなくなっているマルグリートは冷静でいられない。デジレからフランスへのパスポートを渡された彼女は夫を追ってフランスへ!おい!学習しろよ!!旦那を信用しろよ!!と誰もが突っ込まざるを得ないところ。ますますヨーロッパ一の才女というのが怪しくなってきたぞ。これもショーヴランの手の内なのでフランスに着いたとこで逮捕されるんですがね。ああもう言わんこっちゃない。そしてブローニュ(決闘の場所もここ)の監獄に投獄されそこでフーケ神父に出会い…

この後パーシーはご丁寧にショーヴランに会いに行きます。個人的にはこの辺が一番の見所かなあ。相手の名前をわざとショーベルタンと何度も間違えてのらりくらりとかわすのだけど、マルグリートの名前が出てくると僅かに表情が引きつり剣のつかを握り締める所や、ショーヴランが提示した取引にパーシーが応じなかった場合マルグリートにマリー・アントワネットと同じ屈辱を味わせてやると言われて思わずブチ切れてショーヴランに掴みかかる所は本当に萌える。やっぱりオルツィさん分かってるなあ!

一方のショーヴランの描写も興味深い。ミュージカル版では「泥水をすすって生きてきた〜」みたいな事を歌ってたが元々は同名の貴族出身の役人がモデルらしいんですね。だから原作のショーヴランは育ちそのものは良さげな印象を受ける。3巻でも平民出身の部下が野蛮で残酷な提案をした時内心ドン引きしてるという描写がある。やる事はエグいんだけど手口は血生臭くないのはそのためなのかなと思った。

ここで話がそれますが、この物語に関わって来る歴史上の出来事として「理性の祭典」というのがあります。私は歴史の知識はさっぱりなので最初読んだ時分からなかったのだけど、調べてみたらフランス革命ってのは宗教の改革までやろうとしたらしいね。それまでのカトリックは既得権益の温床だという事で教会の財産を没収したり聖職者を多数弾圧したらしい。そこで宗教に代わる新しい概念を作ろうと開催されたのが「理性の祭典」というイベント。現代にはそのかけらも残ってない所を見ると全く定着しなかったんだろうけど、当時は何から何までひっくり返そうとしたというのが分かる。

これを踏まえるとショーヴランが事あるごとに「私は神なんか信じない」みたいな事を言ってる(4巻でそんなやり取りがあったはず)のはそんな時代背景のせいもあるのかな?と思った。対照的にパーシーはちょこちょこ神に言及するのが目立つ。そう言えばミュージカル版の歌詞を調べるとパーシーの歌には神様や聖書の一節がよく出てくるのに対してショーヴランの歌には一切出てこない。作詞家はそこまで考えて作ったのだろうか???

ラストのオチはパーシー曰く「僕は偶然に任せることはしない」らしいけどいやいや偶然じゃね?と言いたくなる展開です。でも紅はこべシリーズに通底する「こまけえことはいいんだよ」精神で乗り切りましょう。この作品はパーシーとショーヴランが直接対峙する場面が多いのでやってる事は地味だけどワクワクする場面が多いです。どこか邦訳して出してくれないかなあ〜?

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