シャーロック・ホームズを読んでみた(短編編)

皆さんは「コンプリート・シャーロック・ホームズ」http://www.221b.jp と言うサイトをご存知でしょうか。既に版権が切れているシャーロック・ホームズ作品全60作(短編56、長編4)の邦訳が読める夢のようなサイトなんです。最近そこを毎晩訪問して読み漁り短編は全部読みきりました。むかーし「少年少女世界奇怪文学集」みたいのでいくつか短編読んだのが始まりで、中高生になってから短編と長編をいくつか読んで何となくホームズは制覇した気になってたんですね。でも近年BBCシャーロックや新ロシア版ホームズなど原作のエッセンスを抜き出して再構築し直した作品が多いじゃないですか。「これ元ネタ知ってたらもっと面白いだろうな」という思いが日々強くなってきました。大人になってから読むと昔と見方が変わった所があったり、少し読みかじっただけで分かってるつもりになってたんだなと反省したり色々な発見がありました。今回は短編集について簡単な感想やツッコミを述べたいと思います。シャーロッキアンではないのでホント素人臭い感想ですw

①シャーロック・ホームズの冒険
短編集は1冊目だが、この前に長編「緋色の研究」「四つの署名」が刊行されている。でもホームズの人気が一気に上がったのはここに収録されてる「ボヘミア王の醜聞」がきっかけ。そう、おなじみアイリーン・アドラー登場回です。女嫌いのホームズが唯一自分を出し抜いた女として認めている特別な存在。1回きりの登場だけどなぜか強く読者の印象に残る。そのせいか同作の人気も高いはず。この短編集には他にも「赤毛連盟」「まだらの紐」「ぶな屋敷」「青い紅玉」など人気の高い作品が多い。私が小学生の時子供向け選集で読んだのもこの辺。だから今でも強く印象に残ってるのかな。初期の作品は「金も身寄りもない若者が高報酬の仕事を持ちかけられ事件に巻き込まれる」パターンと「地元で人格者と讃えられている老人が過去に犯罪を犯しており昔の仲間に付け狙われる」パターンが多いような気がする。

②シャーロック・ホームズの回想
ここに収録されてる中で人気あるのは「マスグレーヴ家の儀式」とか「最後の事件」かしら?前者は新ロシア版ホームズでまるまる1話使って描かれた(ただし新ロシア版ならではの味付けがされてただでは済まなかったはず)。後者はかの宿敵モリアーティが出てくる回ですね。今回改めて読んで驚いたのはモリアーティって本当にぽっと出なんですね!「最後の事件」で初めて名前が出て来る。それまで伏線も何もなく「ロンドンで起きた犯罪の半分は彼の息がかかってる」みたいな事いきなり言われてもびっくりですよ。何でもいいからホームズを終わらせたかったというコナン・ドイルの執念が垣間見えますwでもアイリーンと同じくモリアーティも1回こっきりの登場なのに人気キャラ。ホームズの宿敵は実は他にもいるんだけど彼を「殺した」功績?を評価されたのか唯一のライバル扱いされてますね。

③シャーロック・ホームズの帰還
ホームズを葬り去りこれで自分の書きたかった小説を書けると思った作者ですが、読者からの再開を望む声や出版社のラブコールに押される形で「最後の事件」から10年後「空家の冒険」でホームズを復活させます。前2冊と10年離れているせいか少し作風変わった?十分面白いんだけど少し暗めになってると言うか、人々のドロドロした情念がより強く感じられるようになったなーと思った。だから子供向けに紹介されてるのは初期作品が多いのかな?せっかく復活したのにこの短編集の最後の作品「第二の染み」ではホームズが探偵業を引退して田舎に引っ越し養蜂の研究をしていると書かれ、またドイルさんホームズ終わらせたくなったんかいwとおかしくなった。

④最後の挨拶
この辺になって来ると作者が色々試したくなったのか、これと次の巻ではホームズ自身が語り部になったり第三者が書いている体裁を取ったりと変則的になって来ている。初期に比べホームズとワトソンの関係性が詳細に描かれている気もする。ワトソンが危険な場所でも付いて行くと言うのを聞いていつもの冷淡な表情が消えて一瞬優しい顔を見せるホームズとか、そういうの好きな人は少なくないと思う(意味深)。ただネタバレになるから詳しくは言えないが、「瀕死の探偵」はもしこれを新ロシア版でリメイクしたらホームズはワトソンにボコボコにされるだろうなwと思った。しかもホームズは「女嫌い」の癖に「女性に対し優しく礼儀正しく」接するのでハドソン夫人に心酔されてるって、どこまで完璧超人なんだよ!となった。そういや「犯人は二人」でも調査のためにメイドをたらし込んで婚約までしてたっけ…

⑤シャーロック・ホームズの事件簿
ここに収録されている作品が書かれたのは1925年〜1927年。回想という形をとっているので作中の時代はもっと前だけど既に電話や蓄音機といった道具が出て来ている。ホームズが電話使うイメージないんだけど時代設定をビクトリア朝に固定しているドラマを見慣れた影響なのかも。気になって調べたらアガサ・クリスティー作の「スタイルズ荘の怪事件」は1920年に出ていたんだね。このころには既にエルキュール・ポアロが誕生していたのかと思うと不思議な気分になる。さっきホームズとワトソンの関係性と書いたけど「三人ガリデブ」ではこんな記述がある。犯人と格闘中ワトソンが撃たれた時のホームズの反応。

「怪我はないな、ワトソン?お願いだから、怪我はないと言ってくれ!」
一つの怪我の価値があった、・・・・もっと沢山の怪我の価値があった・・・・冷たい仮面の下に潜んでいる誠実さと愛情の深さを知るためなら。明晰で厳しい目が一瞬霞み、引き締められた唇は震えていた。たった一度だけ、私は偉大な頭脳だけではなく、偉大な思いやりを垣間見た。私のささやかだがひたむきな長年の貢献によって、遂にこの発露の瞬間がもたらされたのだ。

……お、おう。私は別にそういう趣味はないがどう受け取られても仕方ないような…げふんげふん。

ホームズシリーズがこれだけ愛されるのは謎解きの面白さはもちろん、ホームズのエキセントリックな個性やワトソンとのコンビ萌えなど色々な要素があるからなんだろうけど、今回強く印象に残ったのは導入部から引き込まれる書き方をしているということ。「この事件を公表するのはある人物の意向によりできなかったがその人物が亡くなったため〜」とか「国を揺るがすスキャンダルに発展しかねないので詳細はぼかすが曖昧な記述があるのはそのためと思って欲しい」とか「事件自体は派手だが彼の非凡な推理力を伝えるには適していない事件もある」などワトソンが書く導入部の記述が読者にもリアルに感じられるよう工夫されてて物語の世界に一気に引き込まれるんですね。さすが伊達に100年以上も愛されてないよなあと感心した次第でした。

最後に話が変わって申し訳ないけど、「マイフェアレディ」を調べてる時ヒギンズとピッカリングはホームズとワトソンがモデルだと聞いてなるほどと思った。確かにヒギンズも偏屈で女嫌いである、ちっとも紳士らしくないけどwそういやレスリー・ハワード見てて彼もホームズ似合いそうだなと思っていたら息子のロナルド・ハワードはホームズ役者だったらしい。写真を見ると父親の面影がありますね。

でもホームズの映像化作品で言ったら一番有名なのはグラナダ版でしょう。私も小説読みながら脳内で露口茂の声とジェレミー・ブレットの姿が再生されていましたよ。最近AXNミステリーで見直したら特に初期の切れ味の鋭い刃物のような危険な魅力をまとったジェレミーホームズに惚れました。ぜひグラナダ版完結させて欲しかった…病気の事とか色々知るとやるせない気持ちになるね。それを考えると「名探偵ポアロ」は無事完結できて幸せな作品だったと思う(おまけに日本語吹き替えの役者も最後までやりおおせてから亡くなったなんて奇跡に近いと思う)。またまた話が脱線してしまったのでこの辺で。次は長編に挑戦だ!

“シャーロック・ホームズを読んでみた(短編編)” への2件の返信

  1. 雑食さん、お久しぶりです。
    この記事の最後のブロックに激しく共感して、ついコメントを書いてしまいました。グラナダ版についての感慨、まさにその通りです。そして『名探偵ポワロ』の映像化完結についてもしかり。最後のDVDーBOXの発売を待ちかね、『カーテン』の撮影時エピソードの衛星放送の番組を身内に録画してもらって何度も観たことを思い出します。熊倉さんが全エピソードの吹き替えをして下さったことを本当に感謝しています。『名探偵ポワロ』はNHKで初回放送されていたとき偶然目にして、私がクリスティーと海外ドラマとイギリス文学に夢中になるきっかけとなった作品です。もう25年くらい前でしょうか。年月の経過も感じてしまいますが。

  2. いつもコメントありがとうございます。ついとおっしゃらず気軽にコメントしてくださいw
    グラナダ版ホームズは当時リアルタイムでNHKで見ていたので後期の印象が強かったんです。しかし最近初期シリーズを見返してこんなに溌剌としてて生命力に溢れたホームズだったのかと驚きました。恐らく本人が一番それを自覚していたと思うんです。だから後期は命を削りながら必死でしがみついているようにも見えて視聴する方もちょっと辛くなります。完結できなかったのは残念ですけど原作に最も忠実な最高のホームズ役者の称号は今後も変わらないでしょう。
    ポアロに関してはむしろ完結できたのは稀なケースですよね。こちらもゴールまでは紆余曲折があったと聞いてますが間に合ってよかったと思っています。熊倉さんの訃報ニュースの時ゲゲゲの鬼太郎ばかり取り上げられるのを見てポアロの方がすごいことやってるのに!とやきもきした気持ちになってました。私もこのドラマがきっかけでアガサ・クリスティーの小説を沢山読んだり他の推理小説にも手を広げるようになりました。当時の時代の雰囲気が忠実に再現されていて何度見ても見飽きませんよね。

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