世界の中心で「パジャマゲーム」の愛を叫ぶ

こんにちは。すっかりパジャマゲームの虜になってしまった私です。自分でもなぜこんなにハマるのかよく分からないくらいwでも霊感が「ここまでの作品はもうしばらく出てこないぞ」と囁きかけるので何度も観劇行ける身分ではないのですがチケット増やしてしまいました。

一度見ておおまかには把握したので今度はYouTubeに転がってる海外の動画を見てみました。パンフにも書いてあったけどブロードウェイ初演が1954年、1957年にドリス・デイ主演で映画版が公開、2006年にブロードウェイ再演(ベイブを演じたのは渡辺謙主演で日本でも話題になった「王様と私」のヒロインだったケリー・オハラ)、2013年にもウエストエンドで上演したそうですね。あと、前に記事にしたことのある高校生ミュージカルでも結構取り上げられてるんですよ。結構アダルティーな要素あるけど高校生もあれやっちゃうんだ…普通にキスシーンもあるし日本の常識では考えられん…

ミュージカルって日本人の表現手段には合わないのかなあと今まで考えることもあったけど、今回の舞台海外と比べて引けを取ってないじゃん!と嬉しい発見がありました。それ位トム氏とニック氏のセンスが光ってるのが分かる。役者の技量だって負けちゃいない。比較すると結構変更になってるシーン多いんです。そこで元のバージョンと今回の舞台どこが変わってるか私が気付いた範囲で列挙したいと思います。トム氏が何を考えて演出したかが色々察せられて面白いですよ。当たり前だけど前の記事よりネタバレの度合いがひどいので注意してくださいね!

①Small Talkの歌われるシチュエーションが変わっている
あの「唇には他にやることがある」という歌ですね。ピクニックでシドがベイブを後ろから抱いているシーンで歌われたけど、元々はベイブの家のキッチンで歌われるんですよ。だからお芝居の中にあった「近所の目があるから家には来ないで」というのは新しく加えられた台詞だと思う。あと本当はベイブの父親も出てくるんです。シドにコウモリの剥製や切手のコレクション見せてベイブに「パパやめてよ!」って言われるwキッチンでの2人のやり取り見てるとすっかりベタベタしちゃって「お前ら夫婦かよ」って思っちゃうんですね、ベイブが「なんか作ろうか」とか言ってるし。歌詞の内容の甘さも考えるとピクニックで歌った方が初々しさが際立つと思う。2幕でもSteam Heatの場面の後ベイブの家で組合員達が作戦を練る場面があるけど今回ではベイブの家は出てこない。
②チャーリーの出番が増えている
いい人すぎて切ないと評判のチャーリーですが、彼って元々はそこまで重要人物じゃないみたい。ミシンは直してやるけど別にシドとベイブの仲を気遣う場面ないし。ベイブを密かに思いながら彼女の幸せを願っているというのは新しく足された要素である。2幕のHey Thereは本来ベイブ一人で歌うんだけど、最後(If You Win, You Lose)にはシドとチャーリーも加わって三重唱(本来はシドとベイブのみ、ここのハモリめっちゃ美しいですよね!)になってる辺り彼の重要性が上がってるのが分かる。2幕の彼のソロナンバー(The World Around Us)は2006年再演で追加された曲で元はシドが歌っていたもの。彼はHernando’s Hideawayでもマイク持って歌っており今回なかなか重用されている。
③Steam Heatで踊る人が変わっている
2幕の冒頭、労働組合の集会で披露される出し物がSteam Heat。今回はベイブが踊っているけど元々はグラディスがやっていたもの。しかし2006年再演ではメイ(プレッツを好きになる娘)なんですね。その理由についてwikiによると「あの場でグラディスが出てきたらやきもち焼きのハインズが怒り狂うだろう、それに社長秘書の彼女が労働組合の集会に出るのちょっと変じゃね?」ということらしい。言われてみれば確かに。つまり労働組合側の人間であれば誰でもよかったのでここでベイブが踊るのは何の不思議もない、むしろグラディスより適任かも。それに北翔さんファンであれば彼女がフォッシースタイルのダンスを披露するなんて楽しみでしかない!
④ハインズの妄想の場面が削られている
Hernando’s Hideawayの後で嫉妬に駆られたハインズがグラディスの所に行くところ、グラディスが男を取っ替え引っ替えするというハインズの妄想の場面があるんだけどごそっと削られているんです。舞台上でベッドにいるグラディスが次から次へとやってくる男と踊るシーンなんだけど間延びするんだよねwだからここを削った理由よく分かるw今回の舞台のようにぐでんぐでんに酔っ払ったグラディスが「ハインズ好きよ」と救いを与えてくれる方が確かにすっきりしている。そこのハインズとグラディスのやり取りとても面白いし。それとグラディスのオフィスで帳簿を調べているシドの元に彼女が逃げてきて、そこへハインズがナイフを投げるという場面も削られている。この場面あった方がハインズのやきもち焼き&元ナイフ投げという伏線の回収はきっちりできた気がするけどお芝居のテンポを優先したんだろうな。

あとグラディスは別にコケティッシュでセクシーなキャラと決まってるわけではなくて、映画版ではベリーショートでハスキーボイスの粋な姐さん風な女性が演じている。この人のダンスがキレキレでまーすごいんですよ。だからSteam Heatでも起用されたのかなと勝手に思ってる。Hernando’s Hideawayの場面は映画版と2006年舞台版をオマージュしつつ新しい要素を取り込んで再構築してるとか他にも調べると楽しいですよ。きっともっと色々あるんでしょうが私が気付いたのはここまでかな。

そうそう、忘れちゃいけないのはシドとベイブの人間像の変化ではないでしょうか。トム氏が男役の北翔さんを見て彼女と仕事がしたいと思いあてがった役がベイブってのが面白い。だって従来はベイブってもっとフェミニンなイメージだもの。しかも退団したばかりでまだ男役が抜けきってないところを「そこが却っていいんだよ!」みたいな感じじゃないですか。それってすごいことだなと。宝塚のこと知らない癖に生意気な事言っちゃいますが、一般的な話として、それまでずっと男役の所作を追求してきて女っぽい仕草が見えようものなら批判されていたのに、退団したら掌を返すように「男役が残っててオカマみたい」なんて陰口叩かれるのは可哀想かなと思うわけです。確かに仕事の幅を広げなければならないからそのままではいられないのは百も承知なんですが、急に型にはまった女性像を求められる、しかも多様性だ何だと言ってるこのご時世に?と少し疑問に思う所もあるんです。そこをトム氏は「男役が抜けきってない所は織り込み済み、むしろそこを生かそう。なぜならベイブはそういうキャラだから」と来たわけでしょ。本当に幸福な出会いだったなあと。

するとカップルの相性の問題もあり必然的にシドのキャラも変わる。本家のシドって新納さんもおっしゃってたけど自信たっぷりでマッチョなんだよね。あれはあちらの女性がセクシーだと思う典型的な男性像だけど、日本の美意識とは結構ズレてる気がするwあれをそのまま持ってくるのは難しいから変えなきゃいけないんだけど、それ以前にシドって矛盾だらけのキャラなのでは。だって初対面の相手に「こんな可愛い苦情処理委員は初めてだ」なんて言う人があんなピュアな恋愛するんだよ?アラフォーなのに!舞台の隅々まで手を抜かないトム氏がこの事に気付かないはずがないと思う。もちろん新納さんも。ベイブのキャラが色々変わったようにシドもかなり再構築し直したのだろう。その結果繊細でどこか寂しげ、でも自分の仕事には誇りを持ち一本気のある新しいシド像が完成したのかなと。シドがベイブを自分のオフィスに呼びつけていきなり食事に誘う場面、ややもするとパワハラに見えてしまうんだけど全然それを感じさせないのは、ベイブが誰にもひるまず自己主張する強い女性で、シドは強がっているけどナイーブな一面を持っていることが理由だと思う。でもその反面ベイブは組合を選びながらもシドを諦められなくて思い悩むし、シドは恋も仕事もどちらも取りに行く芯の強さを見せている。そこがキュンキュンの源なんだよね。うまくできてるよなあ(こなみかん)。

長くなってきたのでそろそろ締めます。何でこの舞台こんなに好きなんだろう?とつらつら考えているのですがよく分からん。ただ一つだけ思うのは、これって大人のためのお伽話なのかなということ。人間誰しも年を重ねれば嫉妬もするし浮気もしたくなるし会社の不正もしたくなるし、悪いことの一つや二つしててもおかしくない。でも完璧な悪人なんてそうそういないし不完全な人間でも肯定してほしい。長く生きればだんだん擦れてくるけど、それでもピュアな恋愛に憧れる気持ちは残っている。労働は辛いけど報われてほしい。そんな大人のための人間賛歌の物語なのではと考えるわけです。

まあ結局、難しいこと考えずに楽しんだもん勝ちだと思うけどね!

“世界の中心で「パジャマゲーム」の愛を叫ぶ” への2件の返信

  1. zasshokuさん、こんにちは。
    この作品、台詞が翻訳物のせいもあって初見では意味が分からないままにしてる部分が多く、何回も観劇してるうちに分かったり、別の意味がこめられていたり、遊び心があって観劇終わってからも思い出してあれこれ考えるのが楽しいですね。
    一見、健全なお話かと思ったら下ネタ満載、ハインジーの言う通りシンボリズムがいっぱいで。でも役者さんが品があるせいかイヤらしくなく一緒に笑える。
    ただ、背の低い役者さんのズボンを脱がせるのってどうなのでしょう。見た目はいじめですが、それ以上の意味が?彼は暗闇で何度も女性と間違われてますし。
    全体に日本版はベイブの登場場面が少なくなっているのではないでしょうか。群像劇の色合いが強くなっていますね。

  2. 今日2回目のコメントありがとうございます。
    全然健全な話じゃありませんよねwピクニックなんかむしろ乱行パーティーに近いしw
    アメリカの作品なので昔見たアメリカのシットコムやカートゥーンでやってたようなギャグが多いなと感じました。ご指摘の場面も「アメリカならどっかんどっかん来るとこだろうな」と思って見てました。
    ベイブの場面は少なくなってるどころか新しい要素が増えてるんです。映画版では2人の年齢は出てこないし、シドの「僕は寂しいんだ」という台詞もありません。映画版のシドとベイブからはキュンキュンさは感じないので一から新たなキャラクターを作り上げたと言っても過言ではないと思います。
    群像劇に見えるのは一人一人のキャラクターの作り込みが念入りにされているせいではないかと。アンサンブルの皆さんまで直接お芝居には関わってなくても舞台上にいてあれこれやっているじゃないですか。そういう積み重ねが人物に厚みを持たせているのかなと。それに皆さんお上手ですよね!一人一人名前を挙げてコメントしたいくらい芸達者揃いで本当に贅沢な舞台だと思います。

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