記憶が薄れぬうちに感想を書き留めておかねば。2月15日から19日まで三越劇場で上演された「恐怖時代/多神教」の舞台を観て来ました。正直言ってチケット取る時は「眠くなったらどうしよう〜」と不安が。だって谷崎でしょー泉鏡花でしょー和物でしょー教養ナッシングでも楽しめますかー?と疑問でしたよ。でも実際観てみたら結構のめり込んだ自分にちょっと驚き&得した気分。想像よりかなりエンターテイメントな作品でした。
まずは「恐怖時代」。谷崎潤一郎原作の戯曲で芸者上がりの側室が我が子を世継ぎにするため男を手玉にとって邪魔になったら次々に殺すという本来悲惨なはずが、登場人物の殆どがブッとんだ悪人で血しぶきプシャープシャーし過ぎて最後誰もいなくなってこんなん笑うしかないじゃんな話でしたw実際客席もよく笑いが起きていて、演出した側もある程度計算のうちだったのではないかな。
主役のお銀の方は北翔海莉さん。短期間の稽古だったろうに歌舞伎の女形の型を流暢にこなしていて流石でした。もっとも宝塚で男役の型を極めたから型がある芝居の方が本人にとっては取り組みやすいのかも。艶然と微笑む顔と般若のような恐ろしい顔とのギャップが本当に面白くてオペラが手放せない。冒頭から寝間着姿で気怠そうにキセルを吸う姿があだっぽくて、えっこの人誰?!とびっくりwそこに来る腹に一物持った男達をお銀の方は自分の色香をエサに操っていく。脇で控えるのは女中の梅野。この梅野を演じるのが三林京子さんというベテランの方で舞台に佇むだけでも圧倒的な存在感。お銀の方に近づく不満分子を目ざとく見付けて逃さない。以下あらすじの説明に入るけど思い切りネタバレになるので注意してたもれ〜(お銀さん風に)。
お銀の方は我が子を世継ぎにするために家老の靱負(ゆきえと読む。こんなの読めないよ!)と共謀して、妊娠した正室を毒殺しようとする。お銀の子の父親は靱負だというのだけど本当に本当?毒薬を調達するために呼ばれた医師の玄沢は警戒しきり、でも本当はお前との子供だとお銀に吹き込まれ俄然乗り気になった。チョロいもんですね。しかし毒薬を手に入れたお銀は口封じのためあっさりと玄沢を毒殺して作戦通りとニヤリ。
毒薬を混入する役として選ばれたのは茶坊主の珍斎。これが「おかあさんといっしょ」でおなじみだった古今亭志ん輔師匠が演じてて、こんな所で再会するなんて!と懐かしかった。お銀に呼び出された珍斎だったが、その娘で腰元のお由良がお銀と梅野の陰謀を立ち聞きしていた。こんな所にはいられない2人で逃げようと画策するが、お由良が「せっかくだから証拠になりそうな物を持って行きましょうよ。梅野さんの枕元にある箱何かありそうよ」と盛大に死亡フラグ立ちあげて「それあかんやつや…」と観客が心配する間もなく梅野によってあっさり斬られる。ここら辺狙っていたとしか思えず、お由良ちゃんには悪いけど吹き出してしまったw
梅野にひっ捕らえられてお銀と靱負の前に出された珍斎。媚びを売る相手以外の前ではぞっとする程冷たい表情のお銀の前でガクガク震えながらも流暢にw予め仕込んでおいた北翔海莉ネタを披露する珍斎さん改め志ん輔師匠www流石にお銀も靱負もこらえきれず肩を震わせていたwアドリブ自体はこのお芝居の世界観とはかけ離れているんだけど、緊迫した場面でおっかないお銀相手に「歌も上手くてタップダンスの名手でサックスもできるのに封印して果敢に新しい分野に挑戦した北翔さん」なんて言ったらもう笑うしかないwww凄惨な話なのでこれがまた癒しというかホッとするんですね。で、この場面の直後に5分の短い休憩があるから引きずらずに済む。絶妙なタイミングのアドリブでさすがだなあと思った。
第2幕は変わって梅野と若くて美しい小姓が寄り添う場面から。どうやらあの強面の梅野は小姓の伊織之助にほの字(死語)らしい。やがてお銀がやってきて梅野が去り二人きりになると「あのおばさんに気がある振りするのも疲れる」と漏らす伊織之助。お前もか!まともなキャラは出て来ないのか!出て来る男キャラは全てお銀の手中ということらしい。
さていよいよ殿の出番。いきなり家臣がお銀の方こそ殿をたぶらかしてるのです!と忠言する場面から始まる。第一印象はちょっとパンキッシュな、お銀の方とある意味お似合いな殿。そこへ殿への忠義を示すためにと伊織之助が家臣を相手に御前試合を申し出た。快諾する殿。なよなよした見かけによらず武芸に秀でた伊織之助は家臣二人に致命傷を与えた。ピクピクする家臣を見て興奮した殿は腰元達に家臣の衣類を剥ぎ取れと命令。狂気が乗り移ったかのように無邪気にキャッキャッとはしゃぎながら衣類を取る腰元達。殿のヒャッハーぶりはそれだけに留まらず。同じく武芸の達人である梅野と伊織之助で真剣勝負をしろと命令。流石に周りが止めるが「何言ってんの、儂本気だけど?」としれっと宣う殿。この辺りになってくると話が違ってきたぞとお銀の方も内心焦り出す。もうここからはジェットコースターのような展開。梅野はあっという間に伊織之助に斬られてしまう。そこへ奥方が毒を盛られ珍斎が容疑者として捕らえられたとの報告が入る。靱負が珍斎の取り調べを請け負うと申し出、殿と一緒に一旦その場を去る。お銀が伊織之助を慰めるのを戻ってきた靱負が立ち聞きし真相を知ってしまう。伊織之助が靱負を斬る!珍斎から真相を聞いて戻って来た殿も斬る!残されたお銀と伊織之助。最早これまでと二人刺し違えて果てるのだった。最後はガタガタ震える珍斎だけが残された。
みんなみんなおかしな人ばかりなんだけど、背景は説明されないから何でこの人悪いの?とかラストシーンはどう解釈すればいいの?といったものは観る人が想像するしかない。個人的にはラストは刺し違えじゃなくて、お銀の方が伊織之助を叩き斬って血しぶき浴びながら高らかに笑って欲しかったwここまで来たんだから最後の最後で変な情?を出すより初志貫徹という事で大輪の悪の華狂い咲きエンドがよかったなーと思ってしまった。伊織之助にしても梅野とお銀両天秤かけてた訳で状況が違っていれば気持ちがどう転んだか分からないし、梅野も考える間もなく殺されてしまったけど最期までお銀への忠義を貫き通す人物だったのかは疑わしいんじゃないかなーというのが私の考え。もちろんさっき言った通り人によって解釈は違うだろうし何が正解というのもないと思う。ただ谷崎は血しぶきプシャーに萌えてそれが書きたかったんだなというのは何となく想像付くwただ、この舞台では実際にプシャーすることはないのでご安心を。代わりの演出もなかなか練られていてよかったですよ(再演があるから演出面の話はぼかしますね)。
自分の得意分野を封印して果敢に新しい事に挑戦した北翔さん(by 志ん輔師匠)はもちろんよかったけど、三林さんと志ん輔師匠のベテランが舞台を支えていたのが大きいと思う。その上で勢いのある若手たちが伸び伸び演じててまるで車の両輪のようにお互いの力が作用しているなという印象。そういや伊織之助役の河合さんはまだ20代前半と知ってびっくり!!もっとベテランの人かと思ってた。すごい!
長くなったので多神教の感想は次の記事で。