久しぶりに紅はこべの話題です。今回は「アルマンは兄?弟?」問題について詳しく語ろうと思います。「えっ?アルマンは兄でしょ?」原作から入った方はこう思うはず。でもミュージカルだけ観た方は「てっきり弟だと思ってた」と言うでしょう。以前の記事で「原作でも兄だったり弟だったりコロコロ変わってるんですよ!」と書いたけどもうちょっと掘り下げてみますね。
まず踏まえておくべき大前提として「英語って兄弟間でどちらが上とか下とか余りこだわりないみたい」というのがあります。もちろん年上には「older/elder/big」年下には「younger」を付けて区別する方法がありますが特別記載のない場合が多い。1巻「紅はこべ The Scarlet Pimpernel」の本文中ではアルマンはマルグリートのbrotherとしか書かれてないんです。しかし英語版wikiにはしっかり兄と明記されているし、映像化作品でも明らかにマルグリートより年長者に見える役者が配置されています。では外国ではどうやって見分けるかと言うと文脈なんでしょうね。
原作でアルマンはどう描写されているか?1巻でマルグリートとアルマンが直接会話している箇所があり、アルマンの人となりが窺えます。第7章、ドーバーの港でフランスへ旅立つアルマンをマルグリートが見送る場面。手元に翻訳本がないので私の適当な超訳で許してください。
マ「あと30分しか会えないなんて!」
ア「そんな遠くに行く訳じゃない。すぐ戻ってくるよ」
マ「距離の問題じゃないわ。あのひどいパリに…」
ア「僕たちの美しい故郷じゃないか」
マ「今は違う。私たち共和主義者だけど、最近の政府はやりすぎだってアルマンも思ってるんでしょう…」
ア「シッ!」
マ「ここ(イングランド)でもそんな話はできないと思ってるのね!」(急にアルマンに強く抱きつく)「お願い!行かないで!私どうしたらいいの…」(むせび泣く)
ア「君は賢い娘だから国が大変な時に放っておけないのは分かってるよね?」(優しく諭す)
マ「貴方がもっと欠点だらけの人間だったらよかったのに!お願い約束して。他に頼れる人がいないの」
ア「パーシーがいるじゃないか?」
マ「…前はそうだったんだけどね」
ア「でも…」
マ「私の事は別にいいの。パーシーはよくしてくれるわ」
ア「そんなの駄目だ!放っとけないよ!今まで聞きそびれていたけど教えてくれ。どうしても嫌なら言わなくていいから」(急に厳しい表情になる)「パーシーはサンシール侯爵の件については知ってるの?」
まだ2人の会話はつづくのですがここで切ります。この場面マルグリートがひたすらアルマンに抱きついたりすねたりすがったりと、かなり甘えて精神的に頼りきっている(そりゃパーシーに疑われて孤独な思いをしているというのはあるけど)のが分かります。原文ではアルマンはマルグリートのことを「sweet one」と呼びかけているんですね。彼女を慈しんで可愛がっている感じです。彼自身も成熟して分別ある大人な印象。また16章では、マルグリートはパーシーに「親がいなくてお互い支え合って生きてきた。アルマンは私のlittle fatherで私は彼のtiny motherだった」と述べています。調べてみたら、どうやらtinyはlitlleよりも小さいニュアンスらしい。これらを踏まえると本文中に特別記載がなくてもアルマンはマルグリートの兄という見方が大半だと思うんです。
それでは次にアルマンが再登場する4巻「エルドラド El Dorado」を見てみましょう。ここで彼は「若き理想主義者で血の気が多い」と何度も言及されます。そして、かつて助けられた身で革命政府から目を付けられやすいために紅はこべに加入できなかったが、パーシーに頼み込んでやっと今回参加できたと説明されるのです。タンプル塔に投獄された王太子を救うためパリに乗り込んだ紅はこべ一味。アルマンはパーシーに知ってる人物には会うなと禁止されていたにも関わらず、人恋しさから旧友に会ってしまう。この時点でアチャーなんですが、重大な局面なのにジャンヌという舞台女優に恋してしまう始末。挙句色々あってジャンヌが投獄されたら助けに行こうと任務もすっかり忘れパーシーを裏切ってしまうのです!これが1巻のアルマンと同一人物に見える?冷静になれとなだめるパーシーに「あんたは愛を知らない冷血な人間だ」などと罵声を浴びせます。はあーーーっ???あんた何様よ?!怒りに任せて更にネタバレしちゃうけど、この後アルマンはショーヴランに捕まってしまい、パーシーを捕える囮にされ、パーシーはそれを知りつつアルマンを解放するために自ら捕まりに行くのよ!!アルマン許せん!!
ふーっ。取り乱してしまいました。4巻でもマルグリートとの会話があります。でもこれが1巻と立場が逆転しています。パーシーを裏切ってしまった罪悪感からすっかり憔悴しきったアルマンを、赤ん坊だった彼が歩くのを支え涙を拭ってやったのと同じ手でマルグリートが包み込むなんて描写があるくらい慈愛の母モード。アルマンは彼女を「little mother」と何度も呼びすっかり甘えている、1巻で「sweet one」と呼びかけていたのとは大違い。(因みにアルマンのやらかしについては彼女は聞かされてません)。背もマルグリートの方が高いらしいです。そして何より!!アルマンは8歳も年下ということがあっさり説明されている。えーっ!
オルツィさんは別に1巻で兄か弟か明言しなかっただけで本当は最初から彼女の中では弟設定だったんじゃない?と思われる方もいるかもしれませんがそうではないと思うんですね。兄か弟以前にキャラクターの性格が変わってしまってるのが何よりもイタい。1巻のアルマンがただ若くなったとしてもあんな甘ったれ坊やにはならないでしょう。最初から弟設定ならば性格も違っていたはずです。英語圏の人はどう解釈してるんだろうと色々調べたら「オルツィさんは設定資料集を作るべき。兄が弟になるなんてあり得ない、矛盾してる」と言われておりやっぱそうなんだなーと。先にも書いたように英語圏では、1巻の設定では兄と認識されているようだし。やはり「100年前の小説だしこまけえことはいいんだよ」ということなんだと個人的には思います。でもそれでいいのか?私は誠実で頼れる兄と謎多きヒーローの夫に愛されるマルグリートのシチュエーションが好きなんで4巻でそれが変わってしまったのは残念なんですね。ミュージカルのアルマンも物足りなさを感じてるほど。しかも弟アルマンは本当に酷い奴で事情知らないとは言え呑気に保護者モードなマルグリートにまで腹が立ってしまったw
最後に話題が逸れるけど、相手の呼び名についてはパーシーも興味深いです。1巻ではマルグリートに不信感バリバリだったのでマダムとよそよそしく呼んでいたのが、誤解が解けてラブラブになった後は「my sweetheart」「my beloved」「dear heart」などに変わっているのが面白い。こういう所にも気持ちって表れるんだね。
お久しぶりです。紅はこべネタがアップされているので絡みにきました(笑)先ほど1回コメント送信したのに掲載されず、再度入力しています・・・
アルマン問題、私も原作から入ったので、「お兄様」のイメージですが、思い出したのは、原作第10章「オペラのboxで」にある1文です・・・
That letter of Armand’s–foolish, imprudent Armand–was in Chauvelin’s hands.
愚かで軽薄なアルマン・・・
私はまだエルドラドまでこぎつけていないのですが、雑食様の紹介で知って、私もアルマン許せん!4巻になってもまだ軽薄さが直っていないのか!って思いました。最近見た宝塚版の弟アルマンも、パーシー様に向かってひと言物申したり(義兄相手に生意気な!)、いくら展開上仕方ないとはいえ、恋人相手に自分がスカピン一団だとばらしたり、つっこみ所満載。やっぱりアルマンって弟のほうがしっくりくる・・・?とにかく1巻でも4巻でも捕虜になって、問題をややこしくする愛すべきキャラですね(笑)
宝塚BD買いました。BOXも見ましたが、私個人的には2017星組の紅ゆずるさんのパーシーが好きです。あと1年早く紅はこべにはまっていたら、リアルタイムで観劇できたのに、ついてないです・・・。
ちなみに今、第3巻の英文と苦闘中です。結局2巻は外伝風てことで飛ばしました。ロベスピエールのねちねちを越え、リッチモンド祭りのイチャコラを楽しみ、今はブースであの人が「失敗した」連発してる所です。英語できない私は訳すのが大変です。辞書や翻訳サイトも限界があるじゃないですか。「市民ショーヴラン」?「シトワイヤン」?とか基本のことにつまづいて、「道理の女神」って何?とか、特に1章は難しくて早速挫折しそうになりましたが、そこは雑食さんも言ってるように、「パーシーへの愛」と「こまけえことはいいんだよ」で突き進み。ああ、雑食さん、もしくは紅はこべを愛する人たちで翻訳本出しませんか?!早く外伝まで読破したいです・・・
では、長文失礼しました、また紅はこべネタの時に出没します!
コメントありがとうございます!私も英語は学校でやったきりなので読むの正直しんどかったりします。分からない所は思い切ってスルーして余り辞書を引きすぎず大意を捉えるのがコツかなと思います。3巻についてはある方が途中まで訳して下さったものがネットにあるのですが紹介していいのかな…3巻の英語の原題と「紅はこべ」という言葉で検索するといいことがあるかもしれません?!(私のブログもヒットしてしまいますがw)実は少し前まで3巻まで訳して下さった方がいたのですが現在リンク切れになってしまい見ることができません。ミュージカルもヒットしてそれなりに続編の需要あると思うので続編の翻訳出て欲しいです。
宝塚版も観たんですね!原作と変えてありますがなかなか面白いですよね。私は月組の霧矢大夢さんのパーシーが好みです。スカピンは宝塚のドル箱演目なのでまたいつか必ず再演しますよ!その日までお互い気長に待ちましょう。
こんにちは!返信有難うございます。
3巻の16章まで訳して下さったサイトですよね?私は自分で何となく訳してみたあと、答え合わせのように拝見しています。でも16章以降はどうしよう・・・。中断されてしまい残念です。性格上、どうしても、わからない単語があると気になってしまって。
ちなみに私は今、デジレとジュリエットのいさかいの場面を読んでます。パーシーも登場し、おもしろくなってきました!
宝塚公演、首を長くして待つことにします!あと何年後でしょう・・・。
ほかにも、紅はこべに関するおススメ情報等があったら、教えてくださると嬉しいです。
コメントありがとうございます!返信が遅くなってすいません。
そうそのサイトです。いい所で終わっているのが残念ですが、自分で読むだけなのと文章にまとめて翻訳するのとでは労力が違うので仕方ないと思います。途中まででも形にした方がいらしたのはすごいと思います。
パーシー登場したとなるとこれから面白くなってきますね。ショーヴランとのやり取りは思わず笑ってしまうこと請け合いです。
私も負けじと続編読んでいきたいと思います。ただなかなか時間がなくて難しい…