とうとう観てきました!前から楽しみだった来日公演「エビータ」。演目自体興味あったけど日本公演限定でチェ役をあのラミン・カリムルーが演じるというのだから驚き。裏事情知らないけどこういうことってあるんですね。その間本来のチェ役の人どうするんだろ?とか色々疑問あるけど、彼のコンサートでなく舞台が日本で見られるなんて普通ないでしょう。来日公演は当たり外れがあると聞いて一抹の不安もあったけどまたとないチャンスなんで迷わずチケット取りました。
有名すぎる作品だけど一応あらすじ。1950年前後アルゼンチンで権勢を振るったフアン・ペロン大統領の夫人エヴァ・ペロンの半生を追ったロックミュージカル。カネもコネもない田舎娘が美貌を武器に男を取っ替え引っ替えして成り上がり、果てには大統領夫人まで登り詰めたが病に侵され33才の若い生涯を閉じるという話。マドンナ監督・主演で映画化もされましたね。
おおまかな内容は知っていたけど実際観たら結構とんがった作品で驚きましたw「悪女とされてるけど本当はいい人なんだよ」みたいな話だと思ってた。それが「自己プロデュース力に長けたビッチで成り上がりおまけに金に汚い」と情け容赦ない言われよう。例えそれが真実でも本国では彼女は貧しい者に施しを与えた「聖女」であり「国母」なんでしょう?それをイギリス人の部外者にケチョンケチョンに貶されては、アルゼンチン人は不快だろうなあというのは想像に難くない。しかも初演は彼女が死んで20数年しか経ってない時だったからまだ生々しい記憶が残っていたのでは?昔マドンナが映画化した時アルゼンチン人から反対の声が上がったと聞いたけどそれも仕方ないと思う。
では、私たちがこれを観て何に感動するのか?とにかく彼女は強かでエグいんです。邪魔なものは切り捨て何も恐れず突き進む。そんな姿を嫌という程見せつけておきながら「どんくらいふぉみ~あるじぇんてぃ~なぁ~」の場面では真っ白に美しいんです。観てる方も熱狂する国民の気持ちに共感してしまう。それが自己プロデュース力の賜物だと分かっていても。そんな野心にまみれた彼女が志半ばにして子宮頚がんに倒れてしまいます。心は萎えていなくても容赦なく身体が衰えていく。ここで殊勝になったり弱気になったりすることなく最後まで己を貫くのがまーすごい。それでもこれまでの出来事が走馬灯のように蘇った後に事切れ、ふつっと幕が降りる。残された観客は呆然としたまま一直線に駆け抜けた彼女の生涯に善も悪も超えた次元で不思議な感動を覚えるという次第です。現実にいたらとても好きになれない人物(実在の人だけど)でも共感したり感動できたりするのはまさに物語の力であり怖さだと思う。本当に感動していいの?これも彼女の術中にハマってるのでは?などとグルグル考えてしまった。
こんなアクの強い人物を描く手法として客観的かつ冷静に彼女の言動にツッコミを入れる狂言回しを登場させています。それがチェ。名前やビジュアルが革命家のチェ・ゲバラに似てますが関係なし、二人の接点もなかったそう。ただ彼は単なる物語の進行役だけではなく、エヴァの内面に介入して非難したり皮肉を言ったり問い正したりする。この冷やかな態度は首尾一貫していてエヴァの今際の際でも冷徹な視線を投げかけています。ここは流石に憐憫めいた態度取るのかなと思っていたからびっくりしました。エヴァが出世するために置いて来た良心とか葛藤みたいなものを表した存在がチェなのかも。彼の思想を考慮するとエヴァの味方になり得たと思うんだけどなー。いくら庶民に富を再分配してもその手法が汚かったり自分の懐にゴニョゴニョする所が相入れなかったのか?しかしチェが彼女の言動に厳しい批評を加えることで却って彼女の孤独や不安定さが際立ち、観客のシンパシーを煽る結果になるのだから不思議。
そんな話なんでとにかくエヴァを演じる人の責任が重い。彼女に舞台の成否のかなりの部分がかかっていると言っても過言でないと思う。今回は24歳のエマ・キングストンさんという方が演じたけどこれがめっちゃいい!とにかくパワフル!一つ一つの舞台に惜しみなくエネルギーを注いでいるのが伝わって誠実さを感じる。まだ若いのにエヴァのカリスマ性というか凄みのようなものも表現できている。年を重ねれば更にうまくできそう。弱気なペロンを鼓舞し民衆を焚きつける「A New Argentina」という曲では物理で殴られているような迫力だったw 日本にはこういうタイプの人いないよね。動画で見た何年か前のBWキャストよりもいいと思った(ぼそっ)。
そしてラミンのチェですよ。あのカリスマ性はヤバい。あんな革命指導者ならついて行っちゃう(舞台のチェはそんな役柄ではないけどついゲバラと重ねてしまう)。ほぼ出ずっぱりで舞台上で傍観者として眺めてる場面も多いんだけど視線一つにも意味があるからついオペラグラスがそっちに引き寄せられてしまうw 目がいくつあっても足りない。よくセクシーと言われるけど個人的には子犬みたいでかわいいなあと思うw そして初めて生で歌を聴いたんだけどヤバいっすね(とうとう語彙崩壊)。芝居の中の歌だとイメージ変わりますね。ドヤドヤ感はないんだけど強くて深くてスッと入る。
他のキャストも安定しててよかった。特にミストレス役のイザベラ・ジェーンさんが印象的。まだ19歳らしいのでこれからが楽しみです。出番は限定的だったけどソロの曲がとても上手でした。
あと今回の舞台は初演と同じオリジナル演出版らしいんです。それが今見てもとんがってる。私詳しくないけど1970年代のポップカルチャーの影響が色濃く出ている気がする。劇場に入るとオレンジ色の背景に集中線があって貧民を踏みつけて軍人が頂点に立つヒエラルキー図が緞帳に描かれているんです。うまく言えないけどちょっとサイケ入った共産圏のプロパガンダポスターに似てるっていうか…第一印象は昔のロックのレコードジャケットなんだけどね…私にデザインの知識がないばかりにうまく説明できないのがもどかしい!!2幕冒頭の国民に演説するシーン以外はセットがないとてもシンプルな舞台。スライドで当時の映像を流す手法は今では手垢が付いた印象だろうけど40年前は斬新だったんだろう。音楽も当時のロックぽいメロディがちょこちょこあるし、音楽と演出がうまく絡み合っての「エビータ」なのかな。演出家のハロルド・プリンスの略歴調べたら最初の仕事が何と初演の「パジャマゲーム」なんですってよ!どれだけ息長く活動してるんだ!
ここまで来て「あれ?何かと似てる?」と思いませんか?私は「エリザベート」はこれを下敷きにしたとしか思えないんです。エリザベートも善一辺倒の人間ではないし、人間の多面性を描く手段として主人公に冷やかな視線を送る狂言回しのルキーニを配置したのではないかな。ただエビータのチェは進行役だけでなく彼女の内面に介入したりするのでちと複雑な立場なんですね。そこで狂言回しに徹したルキーニとエリザベートのもう一つの姿であるトートに分けて役割分担させたんじゃないかな?主人公が死んでいる状態から始まって少女時代に遡るのも同じ。ただ「エリザベート」の方が分かりやすく整理されていて観客も感情移入しやすい。それもエビータという先達あってこそ換骨奪胎できたのでは。
最後にオフィシャルプロモ置いときますね。本来のチェの人も見られます。ラミンもいいけどこの人もうまいな!今まで南アフリカ、ドバイ、シンガポール、香港、台湾を回ってきたらしいです。日本の後はラストのオーストラリアだって。因みに香港で「エビータ」は「貝隆夫人」で台湾では「艾薇塔」と書くんですって。同じ中国語でも広東語と北京語で違うのは知ってたけどここまで違うんですね。それにしても何回でも観たいなあ。チケット増やしたい欲望と戦っている。今年観劇した中では今んとこ1番かも。
(20180730追記)
追記というか前回記事の訂正です!まず一つ目、緞帳の柄について「軍人が頂点」と書きましたが正しくはさらにその上に細かくて顔は判別できないけどシルクハットを被った上流階級がいるんですね。よく観察したつもりなのに2回目の観劇で気付いた。お恥ずかしい。恥ずかしいついでにもう一つ。世界ツアーで次はシドニーと書いたけどこれは別のカンパニーらしいです!二つも間違っててごめんなさい!前の記事読んだ人はこれも読んでくれるかな?本当にすいませんでした!