今回は生の観劇記録でなくてWOWOWで番組を見た感想です。これ観に行きたかったんですよ~!舞台写真見たら新納さんの流し目にベタ惚れで行けばよかったと後悔しました。上演期間がタイタニックと被っていたので両方ってのは無理だったんです。でもこんなに早く放映してくれるとは嬉しい!ブロードウェイやウエストエンド以外の作品はこういう所柔軟でいいですよね。
海外輸出を見据えた日本発のミュージカル。世界的に有名な黒澤明監督の作品を選んだという辺りにもその意気込みが見えます。製作元のホリプロの社長のインタビューを読んで本気度と情熱を感じ取ったのでこちらも「ブロードウェイで評価されるだろうか」という観点で観てました。だからこれから書く事はいいことばかりでないけどそれは愛ゆえの忠告なので許してねw!って関係者こんなとこ見るはずないからどうでもいいかw
日本人の心の琴線に触れる作品を日本人の手で作る、それを海外の人にも観てもらうって素晴らしい試みだと思うんです。海外の真似ばかりじゃつまらないでしょ。「貴方の文化ではそうでしょうけどウチはちょっと事情違うんで…」と思うこともなきにしもあらず。だけど見せ方とか音楽の良さはあっちの方が上だからつい観ちゃう…悔しいw!
だから今回の企画はとても評価してるし応援してます。ただ全体通して観た感想は一言で言うと「惜しいなあ。もうちょっとブラッシュアップが必要かなあ」という感じです。いい音楽なんだけどパンチに欠けるというか。これ!っていうメロディがないんですよ。音楽も演出ももっとはっちゃけてよかったんじゃないかなあ。放映後演出家の宮本亜門さんがインタビューで「『生きる』がミュージカル向きだと思ったのは映画の中のコメディの部分、コメディであることで出演者を客観的に見られる」と述べてて、それならもっとコメディ寄りにした方が勘治の内面とのギャップが際立ったかも、と評論家めいたことを言ってみるw 例えば歓楽街のシーンはもっとB級ぽく下品に、市民課の職員達をもっとキャラ立ちさせる、勘治が助役に何度も訴えに行く場面はコントぽく、とか。ちょっとお上品に大人しくなってしまった、悲愴感の方が目立ってしまった印象だった。だから勘治が公園を作るという生きがいを見出すまでが少し退屈、そこで1幕終了なんですよ。前フリにそんな時間かけてやるの?と思ったけど2幕で彼が奮闘しても市民課だから公園建設決定にこぎつけるまでが仕事ですもんね。あとは他の部署がやることだし。それはまあ分かるんだけど。
あと新納さん演じる小説家が無双過ぎてw いや、新納さんの出番が増えるのは素直に嬉しいんですよ。映画では勘治に放蕩を教えるだけの小説家にナレーター役をさせたのはいいアイデアだと思う。でも後半有能過ぎwデカダン入ったヤク中オヤジが問題解決し過ぎw 最後息子まで説得してるし。
もちろんいい所もたくさんありました。渡辺勘治役の鹿賀丈史さん!映像では見慣れた人だけどここまですごいとは不勉強ながら知らなかった。前半の生気のない昼行灯みたいな平凡な公務員がとにかく秀逸で、殆ど台詞がなくても佇まいだけで彼がどんな人間でどんな人生を送ってきたかが分かるんです。それが死を前にしてエネルギーを絞り出すように歌う姿や痛みに耐えながらなりふり構わず奔走する姿がもう壮絶としか言いようない。目が離せない。
新納さんも何度も言うけどセクシーで目が離せなかった。彼にぴったりの役だと思う。ミュージカル版での小説家は享楽的刹那的に生きてるけど心の奥底に虚しさを抱え常に生きがいを模索している、そんなキャラクターだと思うんです。それが勘治と出会って、死に直面しながら生の実感を追い求める姿に共鳴し、放っておけなくなる。新納さんは「かなしさ」を体現できる役者さんのような気がして、生で観たのはパジャマゲームだけなのに生意気なこと言ってんじゃねーよって感じですけど、シドもどこか寂しげで悲しげなところがあった。今回の小説家のキャラクターと新納さんの持ち味がうまくハマったケースなんじゃないかなと思った。因みに気になったので調べてみたらアドルムは坂口安吾が依存症に陥った薬らしいです。今はもちろん生産されてません。
他の出演者の方も総じてよかったです。「暇か?」課長は助役に出世してましたねw あと舞台セットも当時の雰囲気が出ていてよかったです。時代を現代にするとかそんな改変がなくてよかった。ってその時代まだ生まれてないけどw 舞台となった昭和27年というとパジャマゲームの時代と同じなんだよね。当時の日本とアメリカの格差にびっくりしますね(そういやパジャマゲームを彷彿とさせる演出がありましたね。今回はミシンじゃなくて机を動かしてました)。劇中で住民が陳情に行ってたらい回しにされる場面あるけど、前に刑事コロンボ見たときやはりコロンボがたらい回しにされていて、日本だけじゃないんだ~と面白く思ったのを思い出しました。映画版もむかーーし見たのですがすっかり忘れてしまったので今回WOWOWでやってたのを録画しておきました。映画見てまた思うところがあったら後で追記しますね。あと来月に他のキャストのバージョンも放送されるらしいんでそれも楽しみです。