またまた行ってきました。宝塚の人気演目しかも東京の劇場、複数行けたなんて今年の運を使い切ってしまったのかと一抹の不安もありますがとにかくよかったです!前も同じ事言ったけどアンドリュー・ロイド・ウェーバー版の二番煎じのような捉え方をされているのが非常に惜しい!製作時期がたまたま被ってしまっただけだし、出来映えの点でも違うタイプの作品だから本来比べようもないと思う。ただあちらはお化け作品だから相手が悪すぎたと言うか、例えるなら「みんな知らないけど本田武史ってすごかったんだよー同時期にプルシェンコやヤグディンがいたから分かりにくいだけで」みたいな。って極一部にしか伝わらない例えしかできなくてすいませんw
でも私にこういう感想を抱かせてくれたのはエリックの望海風斗さんとクリスティーヌの真彩希帆さんのお陰だと思うんです。本当に演技で魅せて、歌で聴かせてくれますよね。音楽の先生と類稀なる歌姫という説得力を持たせてくれますもの。楽曲の良さが伝わるだけでなく脚本の粗もねじ伏せてしまう力がある。2人が舞台の屋台骨支えて他の組子達がそれに応えて全体を完成度高いものにしてるんだと思う。これはまだいい方だけど宝塚って組子の頑張りによって支えられてるケース多いですよねw
今回は2回目なんで色々見えて来ました。エリックはクリスティーヌには紳士だけどキャリエールに対しては少年ぽさが全面に出ている。後者が本当の姿なんでしょう。人と触れてないから音楽の才能以外は成長してないのかな、キャリエールも後ろめたさがあるからエリックをついつい甘やかして来たのかな。クリスティーヌも優しい娘だけど流石にあの場面は頂けない。でも直前まで慈愛の聖母のような表情を浮かべてるんだよね「私なら彼の全てを受け入れられる」と自信満々で。若さゆえの万能感や傲慢さとでも言うのか。彼の背負っているものを余りにも軽く見過ぎたんだね、と思ったら初めてあの行動が少しだけど理解できた(納得はしてませんよ)。シャンドンはラウルよりも影薄いけどあの光属性は確かにウザい。何不自由なく幸福に包まれて生きてきたというだけでそこはかとなく傲慢さを感じるw カルロッタはやった事は確かにひどいけどどこか憎みきれない人物造形で、そんな彼女が容赦なく殺されることでエリックの残酷さが浮き彫りにされると思う。因みに宝塚版では省略されたけど、彼女が殺された後ショレが「私は音楽のことは分からないけどあいつの歌を聴くのが好きだった」という台詞があるらしい。そういう所からもカルロッタをただの憎まれ役として描いてないのが分かります。
こうして見ると登場人物皆何かが欠落してるんですよね。常識だったり謙虚さであったり倫理観であったり。ただ同時に優しさや相手を思いやる気持ちも併せ持っていて、不完全な彼らが限られた状況の中で何とか最大限の事を成し遂げようと奮闘する(でもできない)所が涙を誘うのだと思う。同じく不完全な人間である私たちにとっては感情移入しやすいですよね。でもALW版を見ると、最後全ての虚飾をかなぐり捨てて醜い顔を晒し何もかも剥き出しにしたファントムの壮絶さに圧倒されるんだよねw あれは劇薬過ぎるw あれ見たらこちらが生ぬるく思えるものw 例のシーンでクリスティーヌに逃げられても泣き言言ってるだけだしエリックさん優しすぎ。ビストロオーディションの後クリスティーヌがシャンドンと捌けた後、ALW版なら「地獄の底まで呪ってやるー!」みたいな怨念ソング絶唱してたと思うw
ただ宝塚でオペラ座の怪人やるとしたら断然こっちだと思います。あちらのファントムの感情のうねりは男性しか表せないと思う。クリスティーヌに対する思慕も性的なものが含まれているし、裏切られてからのストレートな怒りは女性では表しきれないと思うんです。それに宝塚でやったら表現が抑えられるような気がする。それだとあの作品の肝(だと私が勝手に思ってる)「キモオタの悲哀」は出せないだろうと思います。こちらの「ファントム」だとクリスティーヌへの思いは母親の投影だし、登場人物の細かな心の機微が描かれているのもそういうのを表現するのに宝塚はうってつけなのでは。
しかし今回のバージョンでも表現が抑えられてるというか説明されていない箇所があるんです。私が10年前に観た梅芸版ではベラドーヴァがキャリエールに裏切られたショックで精神に異常を来したと説明されるのです(自分の海馬はただのスポンジで当てにならないのでちゃんと調べて確認したよ!)。宝塚版ではベラドーヴァが薬草を直にムシャムシャしたりエリックの顔を美しいと言っていたのをキャリエールが「それを見て心が痛んだ」と表現してる所でかろうじて読み取るしかないのですが。だからベラドーヴァがエリックを美しいと言ったのは本物の愛情と言うより判断能力が失われていたからなんですよね。それでもエリックにとっては愛された経験には変わらず、母の死後もそれを唯一心の支えにしていたと…切ねーーー!!!後、エリックの顔が醜くなったのもベラドーヴァが服用した薬によるもの。普通薬が胎児に及ぼす影響と言えば皮膚よりも内蔵や眼や耳などに来るのが多いんだけど…まあそんな細かいことはどうでもいいや。ALW版のファントムは母親からも疎んじられたから愛というものを一切知らず、クリスティーヌが抱きしめてキスしてもどうすることもできなかった(役者によって解釈違うんですがここは一般的なパターンを採用します)、対するエリックは曲がりなりにも愛情を受けたからあのような行動になったと考えると対照的で面白いです。
主役の2人についてはこれまでにたくさん触れたので今回はその他の人たちについて感想を述べます。キャリエールの彩風咲奈さん。中年男性の役だし全ての元凶を作った張本人だし、大事な役の割には我慢する部分が多かったと思うんですが見事に演じてました。最後の「You Are My Own」泣けました。キャリエールのような役を女性が演じることで非道さが和らぐというか、父子の絆がより強調される気がする。シャンドン伯爵の彩凪翔さんはキラキラ発光してました。キラキラ具合が誰にも頭を下げたことがなく全て思い通りに生きてきたであろうシャンドンの生き様を彷彿とさせました。全身でシャンドンを表現してました。カルロッタの舞咲りんさん、「ちょっとやりすぎ」という評も目にしたんですが米国版の動画見たらカルロッタは元々コミカルな設定らしいんですね。だからあの解釈で間違ってないと思う。1人1人が自分の役割を全うしていた所もこの舞台の完成度を上げたんだと思います。もう一枚チケットがあって今度は朝美絢さんのシャンドンも見てこようと思います。この他で気になった人として、カルメンの場面で白い軍服を着た人がカッコいいなあと目を引いたんですが、永久輝せあさんと言って売り出し中の若手スターみたいですね。若キャリエールもこの方だったと。私のようなド素人でも分かるもんなんですねw 「見える…!私にも見えるぞ!」とニュータイプになった気分でしたw