「牡丹灯籠」感想

今だから告白しますが実はこの舞台観るのを迷ってました。北翔さんに洋物ミュージカル出て欲しいと常日頃言ってる身としては正直「また和物かよ!」と思いましたし。しかし牡丹灯籠のあらすじ調べたら記事にしたくなったのでブログに挙げ、となると「ここまでしたからには観に行かないわけにはいかんでしょう」と後戻りできなくなりチケット取った次第なのです。かと言って原作はちょっと今の感覚と合わない所あるしどんなもんかな~とも思ってました。

それが蓋を開けてみたら大当たり!北翔さん目当てで行ったけど、彼女のファンでなく舞台を普段観ない人例えばうちの母親とかwにも自信を持って薦められるほど面白かった。変な表現だけど普通にいい舞台!日曜の午後3時くらいからEテレで放送して欲しい!こりゃ藤間勘十郎さんにジャンピング土下座ですね。北翔さんについては「ああ~ここで歌わないの勿体ないな~」と思う時もなきにしもあらずなのですが、今回に限っては素直に「いい舞台に出られてよかったね」と思えました。

怪談なのに笑えると聞いて??だったのですが確かに笑っちゃう場面が多かったです。ヒュードロドロな怪談というより生きた人間の業を描いた作品だからこういう風に転ぶこともできるのかも。愚かな人間のどうしようもなさって怖い一方で情けなくて笑っちゃったりしますものね。原作調べた時のイメージとは大分変わっていて、でも話の流れはあまり変わってなくてとても新鮮でした。

あらすじは前の記事で詳しく書いたから省略するけど、端折るところは端折ってかなり分かりやすくなってました。平左衛門と孝助の父との因縁は説明なかったし、孝助と新三郎が友人設定になってて事の発端となった百両は孝助が新三郎が仕官できるようにと工面した話に変わっていたり、他にも色々。原作からそう大きく離れずにあの複雑な話をうまく2時間にまとめるなんてかなりの離れ業だと思うけど、藤間さんが20代の頃から温めていた作品だとパンフで述べていたので前から準備していたのでしょう。改変した部分も前より納得しやすい筋書きになっていてよかった。例えば原作では伴蔵お峰夫婦がお露から百両貰ってお札剥がしたせいで新三郎はお露に取り殺されますが、これちょっと変ですよね?お露は新三郎のことが死ぬほど好きでたまらなくて文字通り死んでしまった後も会いに来ているのに、新三郎の方はお露が幽霊と知った途端いくら自分まで死ぬからとは言え、家中に札を貼って締め出すなんてひどいじゃないですか。逆にお露も望みが叶えば相手がどうなっても構わないのかって思っちゃいます。それが今回では新三郎宅に金目の物があると知った伴蔵お峰が新三郎を消そうと画策、ちょうど幽霊のお露に殺してもらいましょうとわざとお札を貼らない場所を作っておく。家中に貼られたお札を見て幽霊と知られたことに気付いたお露と女中のお米は自分たちに着いてこいと新三郎に迫る。すると新三郎は「皆が心配するからお札を貼ったけど自分は貴女が亡くなったと聞かされてから生への執着がなくなった。一緒に行きましょう」と述べる。その心に打たれたお露は新三郎を殺さずに去っていく、という次第。原作より登場人物の心情が自然だし受け入れられやすくなったなーと感心しました。これはいい改変!でも新三郎生きてちゃ話が進まないよ?と思ってたら後から様子を見に来た伴蔵とお峰があれ?こいつ生きてる!?仕方ない自分たちで殺しちゃおう!と新三郎をボコボコにするのです!新三郎には可哀想だけど何故か笑っちゃうw さっきお露と新三郎の純愛にしんみりしたばかりなのにボコられちゃうんだもんw 伴蔵とお峰のテンパり具合がすごいんですよね。伴蔵がお峰に猫の鳴き真似させるんだけど私が見た回では「サカリが付いてるな」と言って清く正しく美しい宝塚に何させるのwwwと笑ってしまいました。北翔さん必死だったw あれアドリブだったのかな?伴蔵たちに殺される方が不条理感も増してて私は気に入りました。

あともう一つ大きな改変は孝助とお国を実の兄妹にしたところかな?そうでないと母親が自害する理由はっきりしませんしね。孝助とお国の因縁も深くなる効果もあると思います。母と再会する辺り偶然すぎて御都合主義なんだけど芝居として見るとそんなに気にならならなかった。お国もお露と同じ舞羽美海さんが演じるから対照的なキャラとして演じ分けするのかなと思ったら止むに止まれぬ事情があって悪に染まったように見られる役作りでした。恐怖時代のお銀もそんな感じだったので藤間さんのイメージする悪女像がそういうタイプなのかも。最後孝助が一思いにお国を斬る場面、せめて長く苦しまないようにしたのかなと思いほろっとししました。市瀬さんはかっこええなあ。別にNARUTO歌舞伎に出ているからでもふたり阿国の時の髪型がベジータみたいだったからでもないけど、ジャンプのヒーローにいそうなイメージなんだよね。彼の出る舞台観るの3回目だけどどんどん好きになって行きます。所作が美しくて立ち姿も決まってて惚れてまうやろ。

皆さん素晴らしいんだけどやはり伴蔵お峰夫妻は欠かせません。北村有起哉さんはお父さんの当たり役を演じることになってプレッシャー半端なかったと思うけどそんなの微塵も感じさせず伸び伸びとクズ男の伴蔵を演じてました。舞台に登場した瞬間から「こいつうだつの上がらないダメ人間だな」って分かりますもん。うまく表現できないけど身のこなしがとにかくセンスいいと言うか、着物の裾を帯に挟んでたくしあげ長くひょろっとした足を折り曲げながら縦横無尽に動き回る姿が印象的なんです。江戸の町人ぽい~って思いました(見たことないけどw)。対する妻のお峰はあんなしょうもない夫を一途に支え、ご近所さんからお酒を貰った時も夫に飲ませられる♪と無邪気に喜ぶ健気なおかみさんです。その2人が世話をする新三郎の話題になり「あのケチ侍がもっとお金くれればお酒だって買えるのに」からキナ臭い話題に移ります。新三郎だってケチな訳ではなくて真面目で潔癖で融通が利かないだけだと思うのだけど、金に困っている夫婦からすれば「金目の物持ってる癖に分けてくれない」なんでしょう。その金目の物だって他人に返す物だから手を付けられないのに欲に目が眩んだ人間にはそれが分からない。冒頭湯島の梅を見ながら新三郎ににこやかに話しかけていたお峰からは想像できないけど人間ってそんなものだよねーと妙に納得してしまいました。2幕は羽振りが良くなったところから始まります。貧乏くさかった伴蔵はいい着物を着て多くの使用人を従えすっかり店の旦那然としてます。でもお峰から浮気を咎められ弁解する姿はかつてと同じ。お峰の方はほっぺたぷくーっと膨らませたり手ぬぐい噛んでキーッとなったりすっかりご立腹。かわええ!北翔さんかわええ!伴蔵とお峰のやり取り息がぴったり合っていて面白いです。北翔さんいい役者さんと共演できてよかったねえ(誰目線?)。この後伴蔵はお峰を騙して外に連れ出し殺すのですが、殺すと決めた時は迷わなかったのに、いざ殺した後手がぶるぶる震えていつまでも短刀を収めることができない辺りが伴蔵の人となりを表してるなあと思いました。その後の祭りの「わっしょいわっしょい」という掛け声に急き立てられて伴蔵が追い詰められるシーンは凄みがありました。北翔さんはお峰が退場した後はストーリーテラーとして出てきます。円朝の弟子という設定だから三遊亭小円蝶みたいな名前かな?と想像してたら何と「みっちゃん」。そのままやないかーい。少しはひねろやー。このみっちゃん、冒頭にも前座として登場するんですけど、朱の着物を着てぱあっと花が咲いたような華やかさを振りまいて出てきて「これがトップってやつか」と感心してしまいました。あのオーラを見てしまうともちろんどんな役でもこなせそうだけど真ん中に立つ姿が一つでも多く見たいと思ってしまうファン心理。

他にも書きたいこといっぱいあって困る~。我善導さんの1人6役とか。観客も分かっていて早着替えで再登場した途端「またかよw」みたいに笑いが起きていました。早着替えすごいと言えば舞羽さんも。お国とお露の入れ替えが結構あったけど着物だけでなく鬘もぴたっと収まっていました。舞台稽古まで早着替えの練習なんてできないと思うけどちゃんと合わせてくるのプロですね。あと三林さんとか鯨井さんとか恐怖時代からのメンバーが再集結していて、またお会いできたのも嬉しかったです。同じ面々ってなかなかないと思うけど、前回の恐怖時代の手応えがそれだけ強かったんだなと思いました。またこのメンバーで観たいです(アンケートに書いてくればよかったんだけど今回書き忘れてしまった~)。

長くなったので最後にラストシーンについて。ifストーリーというかパラレルワールドというか。劇中でいがみ合ったり離れ離れになった者同士が最後に仲睦まじく笑顔で寄り添って出てくるんですよね。孝助とお国、新三郎とお露、そして伴蔵とお峰。お峰が優しい声で「あんたこっちにおいでよ」と呼びかけるんです。こんな未来もあったかもしれないよなーと思わせるラストは妙に切なくてじーんと来て怪談話と言うより人情話を見たような感覚になりました。いい演出でした。

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