「オン・ザ・タウン」感想

この「オン・ザ・タウン(原題 On The Town)」は指揮者佐渡裕さんの主催する年一回の企画で、例年オペラを上演することが多いですがクラシックの枠に囚われずミュージカルをやることもあるようです。確か去年は「ウエストサイドストーリー」だったかな?この企画自体ちょっと興味がありまして、今年の演目にも惹かれたので思い切ってチケット取りました。

と言ってもどういうものか全く見当がつかなかったです。会場は東京文化会館というクラシック演奏用のホールだし、恐らくオーケストラが舞台にいるセミステージ方式なのかな?とか考えていました。「オン・ザ・タウン」というお話についても昔ジーン・ケリーとフランク・シナトラ主演の映画があった、よくミュージカルパロディに出てくる水兵3人組はこれが元ネタ、丁度同時期に宝塚が同じ演目をやっている、くらいの予備知識しか持ち合わせていませんでした。映画版の邦題「踊る大紐育」を「ひも…いく?」と読んでいたくらいだったしw

それが会場着いてみたらオーケストラはオケピにいる!演目用にデザインされた幕が降りている!もしかして100%のミュージカル!?果たしてその通りでした。ただメインキャストはミュージカル俳優でなくオペラ歌手(ヒロインのアイヴィはミュージカルでも活躍するバレエダンサー、踊りがメインで歌う場面は余りなかったように記憶している)、踊りを担うアンサンブルはミュージカル畑の人もいるけど本職のバレエダンサーが中心、演出や振り付けなどのスタッフもオペラの舞台を手がけている人たちとちょっと珍しい舞台でした。だからミュージカルであれば一人で歌もダンスもこなすところが、歌とダンスは別担当なんですね。主人公が踊る場面は同じ衣装着た別の人が踊るという感じでした。

歌とダンスそれぞれ高い技術を持っているからいちいち本物なんですよw それぞれの専門分野で殴ってくる。しかもフルオーケストラ!中途半端さがない。ただ声楽の発声法にマッチした楽曲かというとどうだろう?ちょっとオーバーキルかなと思うところもありました。前に「オペラ座の怪人」のクリスティーヌ役でお馴染みのシエラ・ボーゲスが「ガイズ&ドールズ」コンサートでサラをやっている動画見たことあるんですけどそれと似た感覚でした。レミゼやオペラ座~ならいいかもしれないけど、こういう演目だともっと軽い歌い方の方が合っているのかもしれません。それでも素晴らしかったですけどね、後になって気づいたけどマイク付けてなかったし。

内容は他愛もないです。ゲイビー、チップ、オジーの3人の水兵が24時間限定の上陸許可を得て女の子を探しにニューヨークの街に繰り出すという話。ゲイビーは地下鉄に貼られた「ミス改札口」のポスターを見てそこに写ってる女の子アィヴイに一目惚れ。「この娘を探し出してデートに誘う」と無謀な事を言い出します。二人の仲間チップとオジーは命の恩人であるゲイビーに協力することに。しかしアィヴイを探す途中、チップは偶然乗ったタクシーの運転手ヒルディに気に入られ強引にアプローチされます。一方オジーは間違えて入った自然史博物館で、文化人類学者のクレアと惹かれ合います。この2人の女性、ヒルディとクレアがかなりキャラ濃くて思い切り肉食系なのですw ヒルディは「あらいい男が乗って来たわ家に連れ込んじゃいましょう」だしクレアは婚約者がいるにも関わらず「これはいい原始人並みの骨格…ちょっと頭位を計らせて…なんて素敵なの、我を忘れてのめりこんじゃう」と口説き倒す。ガブッ!ムシャムシャごっくん!正にそんな感じですw

ゲイビーはカーネギーホールで歌のレッスンをするアィヴイと会うことができて夜に落ち合う約束を取り付けるのですが、「芸術にセックスは邪魔」という信念を持つ声楽の先生に邪魔されます。チップとオジーのカップル達とナイトクラブで待ち合わせをしてもアィヴイは現れない。アィヴイはゲイビーは来ないと先生に騙されてコニーランドでバイト(レッスン料を払うためにやむなくベリーダンスのダンサーをしている)をしているのです。アィヴイと会えなくて意気消沈するゲイビーを4人が慰めます。ナイトクラブの歌手が失恋の歌を歌い余計に落ち込むゲイビー。「こんな店ダメダメ!」と他のクラブに行くとラテン調になっただけでまた同じ歌が歌われまたダメダメ!そうこうするうちにクレアの婚約者がやって来て「あなたここの勘定よろしくね」とクレアに押し付けられます。クレアの心変わりにも寛大すぎる婚約者ですがついにはブチ切れ…と思ったらヒルディの風変わりなルームメイト、風邪っ引きのルーシーとウマが合い…とドタバタが繰り広げられますw 3軒目の店で、飲んだくれるアィヴイの先生と遭遇。先生は酔った勢いで本当の事を打ち明けます。急いで地下鉄でコニーアイランドへ向かう一行。しかし間もなく24時間の休暇が終わろうとしています。

ここまで観てきて、どうしようもなく享楽的で中身のない話だなーと思っていたのですが、チップとオジーのカップルが地下鉄で「またいつか会える」と歌うところで気づきました。あれだけハチャメチャに楽しみながらも終わりが来ることを悟り「髭を剃るのも見られなかった」「素顔の寝顔も見られなかった」としんみり歌う彼らを見て、これは24時間限定だからこそ許された刹那的な享楽なんだなと。休みが終わればまた戦場に戻らなければならない。彼らの言う「またいつか」だって確率としては高くないでしょう。でも「またいつか」に縋らざるを得ない。まるでシンデレラの舞踏会だけを抽出したような話だと思いました。この作品が上演されたのは1944年でまだ戦争が続いていたんですよね。戦後に映画化された時はこの切ない部分はカットされたそうです。

最後の最後でようやくゲイビーとアィヴイは巡り会えます。しかし間もなく船に帰らなくてはならない。再会をお互い願って彼らは別れます。冒頭と同じ「ニューヨークニューヨーク」のナンバーと共に最後まで明るく。

光が強ければ影もまた濃いように、この底抜けの明るさってやはり戦争あってのものなのかなと思います。そういう意味では時代性を帯びた作品であり、逆にいうと現代では余り頻繁に再演されていない理由でもあるかもしれません。背景について頭では理解したつもりでも当時の人と同じ感覚を共有するのは難しいと思います。それともう一つ、演出上の特徴としてバレエ・シークエンスがあります。昔の作品ではよく見かけますよね。こないだ見た「王様と私」でも劇中で「アンクル・トムの小屋」をバレエ形式でやってたし、映画の「雨に唄えば」でもこんな企画があるんですよなんて言って本筋とは関係ないダンスのシーンを長々とやっていたっけ。「パリのアメリカ人」もそうだよね。枚挙にいとまがありません。「オン・ザ・タウン」でも4ヶ所くらいありました。ゲイビーの夢想という設定でアィヴイと2人で踊る場面、タイムズスクエアで街角の人が踊る場面など色々。ただ、今のミュージカルのスタイルに慣れた目から見ると、話の流れがぷつんと切れるような感じがして余りに多用されると飽きてしまうんですよね。こういうところも昔の作品なんだなあと思いました。ただパフォーマンス自体は素晴らしかったし、変に現代的に脚色せずオリジナルそのままを見せてくれて貴重でした。

とまあ、小難しいことをごちゃごちゃ書いてしまったけどかなり笑えるコメディです。最初の方でゲイビーが地下鉄に貼ってあるアィヴイのポスターを破って持ち帰ってしまうんですが、それを老婦人が見咎め、警官を連れて執拗に追いかけるんです。話には直接関わって来ないけど場面転換で必ず警官に両脇を挟まれた状態で舞台を横切るのを繰り返します。なぜかラストまで追いかけてくる始末でこういうお笑いの型ってありますよね。プログラムには「喜劇の『積み重ねる面白さ』を体現する」と糞真面目に説明されてましたw そうそうプログラムと言えば会場に入る時に無料で配られるんですよ!A5版ながらかなり内容が充実しててかなりお得。兵庫県が主催して文化庁が協賛すると予算が潤沢にあるのか…と考えてしまいました。5階席までびっしりなのも驚いたし、クラシックコンサートに足を運んだことのない私には「幕間でシャンパン提供している…!しかもシャンパングラスで!!何だこのおハイソ空間は…!」としょうもないことに感動してましたw いや他にもやってる所あるみたいだけどさw とにかくええもん見られて幸せでした~。

 

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