今回は豊洲の「IHIステージアラウンド東京」で上演されている「ウエストサイドストーリー(原題 West Side Story)」を観て来ました。この作品高校の音楽の授業で映画版を見たきり、おおまかなあらすじはもちろん覚えてますが、何が一番印象に残ったかと言うと、ジェッツとシャークスが互いを追い回しながら喧嘩をしている(という表現のダンスシークエンス)場面で男子が「踊ってる暇があったら逃げろよwww」と突っ込んでいたこと。そして「男子ってガサツで嫌ねえ」と思いながら密かに同意していた私…とまあその程度です。
だから舞台の形で観るのは今回が初めて。まず真っ先に思ったのは音楽めっちゃいい!!今でも全然古びてない!先日同じレナード・バーンスタインの「On The Town」観たばかりだけどこちらの方が断然耳に残りますね。「Tonight」だけでなく「Mambo」や「America」や「Maria」や「Somewhere」などなど名曲が目白押し。あとバレエ・シークエンスのシーンも本筋から切り離された感がなく溶け込んでいました。この辺他の作品と比べると完成度高いんですよね。だから不自然さが感じられずすっと受け入れられる。再演が繰り返されるのも納得。振り付けも印象的だし。指を鳴らしながら「Cool,cool」と言うの当時日本でも流行ったんだって。わっかる~。
内容は有名すぎるからネタバレ気にしなくていいよね?現代版ロミオとジュリエットです。もちろん悲劇です!昔見た時はひたすらトニーとマリアが不憫だったのですが、今だと「お前ら結構身勝手だな?!」と思ってしまったw 主人公2人は自分たちの世界に浸って周りのことなんか何一つ目に入ってないし、そのせいで振り回されて不幸になる周囲が可哀想。マリアの「決闘をやめさせて」の一言のせいでトニーは成り行きからベルナルドを殺してしまうし、マリアからトニーへの伝言を伝えるためにアニータはジェッツの溜まり場に出向いて酷い目にあってしまう(でもここ話の作りがうまくできてますよね。自分の恋人を殺した男を愛するマリアを許す程に慈悲深いアニータが咄嗟に嘘を付くのもやむなしという説得力を持たせているのだから)。ってどれもマリアのせいじゃないか!トニーもベルナルド殺しておいて「2人が安心して暮らせるどこか平和な世界に行こう」とお花畑で現実逃避。でもこれが「若さ」ってやつなんですよね。何も恐れず時には利己的に振舞ってでも自分の望みを叶えようとする強さと向こう見ずさ。よくよく考えてみればこのお話たった数日の出来事でトニーとマリアがあれだけ燃えるような恋をするのだからものすごいエネルギーです。周りを焼き尽くす程のエネルギーだったというのが分かります。私も歳をとったから若さの負の面が気になるようになってしまったw でも若いうちに一度見ておいてよかったなとも思いました。この心境の変化がまた面白いから。
あと前から言われてるけど社会派ドラマとエンターテイメントがぴったり融合されてるのもよくできてるなあと思いました。そこんとこの匙加減が絶妙で妙にどちらかに偏ってないのです。現代のアメリカに合わせてプエルトリコの移民と貧しい白人層の諍いにして、当時の社会問題を織り込んでます。ジェッツの少年たちが教育も福祉も医療も仕事も非行少年の自分たちを救えないという歌があるし、「America」の歌詞も結構辛辣ですよね。オーバーチュアが流れる冒頭は幕に当時の非行少年が起こした事件を記した新聞記事がプロジェクションマッピングで映され、最後にも人種差別が原因で衝突が起きた事件の場所と日時が次々に出てきて今なお解決されない根深い問題である事を突きつけられるのです。
舞台機構にも触れなくてはなりません。何せステージアラウンド東京という特殊な劇場ですし。どういうものかと言うと、客席は1階席のみで完全な円形になっていて360度回転するんですね。舞台は客席をぐるっと取り囲むようにあって、場面が変化するごとに客席が回転して舞台転換をするらしいです。
こんなんだから演出する方はかなり大変だったと思います。正直「ウエストサイドストーリーでこんな仕掛け必要?」と思ってしまったw 聞いた話だけど「前にやってた髑髏城の方が上手に使っていた」とのこと。でもいくつか印象的なシーンがありました。1つ目はトニーとマリアが小さなバルコニーで「Tonight」を歌う場面。バルコニーが前にせり出して来て辺り一面星空に変わったのがとても美しかったです。2人のために世界はあるの~というのを正に体現してました。2つ目は「Tonight」の五重唱。トニー、マリア、アニータ、シャークス、ジェッツの決闘前夜の心境を同時に歌うのですが舞台を横に広く取って大掛かりな建物と街のセットが露わになって壮観でした。3つ目はラスト、マリアが死んだと誤った情報を吹き込まれたトニーが自暴自棄になって街を彷徨う場面が、舞台が横に長いから街の景色が次々と変わる中を走っててよかったです。あと客席降りや舞台上をバイクが走る場面もあったな。この作品今回は海外カンパニーだったけど、11月からは日本キャストで行われるのですよね。しかもこれが第1弾で、第3弾まで続くらしいからすごいですよね。1つの海外カンパニーと3つの日本カンパニーが同じ演目をするってすごくないですか?でも考えてみたら、これだけの大掛かりな舞台機構一回の公演だけじゃペイできないからキャストを変えて長期間やるってことなんでしょうね。
考えれば考えるほど実験的な試みでよく今の日本でできたなーと感心するし、だからこそ成功して欲しい気持ちはあるけどアクセスは正直悪いですよね。新橋からゆりかもめでしばらくかかるし。余った土地にぽんと建てたという印象。いや、最寄駅の反対側には新しくできたばかりの豊洲市場があるのですが相乗効果は期待できなそう。数年の期間限定の劇場というのも頷けます。この演目チケットが余ってるらしく、駅から降りたところで当日券あります!と呼び込みしてたけど豊洲市場に遊びに来た人が時間のかかるお芝居を観るはずなかろうと思ってしまいました。かなり魅力ある演目で客足を引き付けないとちょい厳しいかもです。出来としてはそんなに悪くなかった、若い人中心だからまだ荒削りなところはあるかもしれないけど(その点WEのカンパニーをそのまま持って来た「王様と私」は違うなと思いました)この演目には若いエネルギーが合ってるからそれもありかも。もしオーブ辺りでやったらもっとお客さん入ったんじゃないかな?もったいないなあと思います。日本キャストの方が出演者のファンが繰り返し観るだろうから売れるんでしょうね。
あと、舞台とは直接関係ないんですが団体客が多い日だったのですよ。だから「ここで普通拍手するよね?」なタイミングでも拍手が起きない。1人だけするわけにもいかんから躊躇してしまうことが何度かありました。ちょっと出演者に申し訳ない気がしてしまった。観てる間は自分の世界に入るから関係ないと思っていたけど、周りの雰囲気も自分の気持ちに影響するものですね。かくいう私も実は初の!招待された身でしてそういうのも影響していたのかもしれない。自分でがむしゃらになって取った演目とは観る前の心構えが微妙に変化するのかなーなんて事を考えてしまいました。そんな私でも十分に楽しめたのだから余裕があればなるべく多くの人に観て欲しいなあと思います。
ブログ復活お喜び申し上げます。
WSSの観劇記録も面白く読ませて頂きました。感想や質問etc.が浮かんだりもするのですが、あまりに自分の見識が低く、また文章も書けないので、北翔さんの記事の時にでも、ちょこっとコメントさせて頂けたらなと思います。が、私が知らない、また観に行けないいろんなことを教えて頂けて、自分の狭い世界が広がるような気がしてます(ホント、知らないことばかりなので)。次の記事も楽しみにお待ちしてます。
早速のコメントありがとうございます。今までお寄せ下さったコメントが消えてしまって申し訳ありません。
北翔さん以外の記事にもお気軽にコメント下さい。私も分からないことばかりですがw
北翔さん関連だと次回はハムレットですね。次々に新しい仕事にチャレンジするのでどうなるんだろう?と毎回ドキドキです。