梅芸版「ファントム」感想

少し前に宝塚雪組バージョンが高評価されその直後の梅芸版発表だったので「どんなもんじゃろまー一応チケット取っておくか」という軽い気持ちで取ったチケット。役替わりも見たいからもう一枚と呑気に構えていたらあっという間に瞬殺でやんの!そこまで人気ある演目だったっけ?いや私は好きだけどさ!?ダブルキャストが効いたのか?歌えるメンバーを集めたからなのか?宝塚効果か?とにかく最初で最後の観劇なんで大事に観てきました(その割にオペラグラス忘れる大失態をやらかす)。

今回の大きな目玉の一つは城田優さんが演出も手がけたことですかね。最初の発表を聞いた時は驚いたけどこれが初めてではないみたい。演出もしている俳優さんは他にもいますしね。そしてその演出が面白かった!真っ白な大きいキャンバスに自由に描いていいと言われ城田さんがワクワクしながら(もちろん生みの苦しみもあっただろうけど)あれもこれもとぎゅっと詰め込んだような舞台。演出過多という意味ではないよ、観客を飽きさせない仕掛けが散りばめられていて一世一代のつもりで挑んだ心意気を確かに受け取りました。

城田さんと言えば「エリザベート」でトートに抜擢された頃のブログをたまたま読んだことがあるんです。全公演終わった後で「怖くて怖くてどうしようもなかった」と不安とプレッシャーに押しつぶされそうだった心情を吐露していて、見かけによらず繊細な人なんだなーと印象的でした。テニミュの経験があったとは言えいきなりグランドミュージカルのプリンシパルに大抜擢と来たら確かに身の縮む思いだったでしょう。それが年月を経てミュージカルの常連そして演出家でしょ。余程影で努力したのでしょう。

ここからは内容はもちろん演出面のネタバレだらけなので未見の方は注意して下さい。まず1階客席に降りていく階段にカラフルな街灯が立っているのです。あれ?元々こんなんだっけ?と思ったら舞台にも登場する街灯でした。そして開演前からパリ市民に扮したアンサンブル達が客席やロビーを闊歩しているのです。しかも観客と会話までしてるし。舞台上は既にパリの街並みが広がり市民達が談笑してて華やかな雰囲気。コソ泥少年もいたりして「これ後で少年エリック演じる子だ」とピンと来ましたw 1幕は暇だからモブとして登場させるつもりだなw

私が観たのは加藤さんエリック、愛希さんクリスティーヌ、木村さんシャンドンの回。エリックの役作りがちょっと意表を突かれてツボりました。観る前は「加藤さんも城田さんもどうせモテモテ人生なんでしょ。生まれてこの方女に触れたことのない童貞の気持ちなんか分かるんですかー?」と斜に構えていました。てっきりスタイリッシュなジェントルマンが出てくるのかと思いきや「ききききみに、うう歌のレッスンを、しししてあげよう」と早口でまくしたてる人間慣れしてない挙動不審エリック!よく考えたら確かにそうあるべきなんですよね。昔見たアメリカのドラマ版ではチャールズ・ダンス演じるエリックはエレガントそのものだったし、雪組の望海エリックも庇護欲をそそる中二病ぽさがあったとは言え宝塚的美学に装飾されてました。でも本来地下の暗闇で孤独に暮らして来た彼が洗練された所作を身に付けられるはずないんです。エリックは乙女心をくすぐる悲劇的なキャラだけど、それにも関わらず「オタク特有の早口」な役作り(でもギャグになってない←ここ重要)は今まで見たことないのでこういう解釈か!となぜか嬉しくなりました。それでいてカルロッタ殺害のシーンは何度も何度も執拗にナイフで刺していたのが衝撃的で、人擦れしてないが故に人間の悪意に無防備で憎悪を増幅させた彼の狂気が伺えます(最初に手にしていた白バラの花束が最後には赤バラに変わっていたのが心憎かったです)。それにしても舞台では滑舌が命なのに随分聞き取りにくそうな口調だなと思ったけど実際はそんな心配はなく流石プロだわーと感心した次第。

クリスティーヌの愛希さんはバレエダンスが秀逸でした。回想のベラドーヴァもクリスティーヌが2役で演じたのだけどダンスは身体言語なんだなというのが彼女のパフォーマンスでよく分かりました。この場面は彼女の独断場。ベラドーヴァは別役者を使うのかと思ったら母の面影をたたえているクリスティーヌが演るというのも理にかなっていてすっきりしてました。愛希さん歌もダンスも両方できるから可能なことですよね。ただ歌の方は普通なら十分うまいんだけどオペラ歌手の卵としてはちょっと弱いかな?と思ったのも事実。真彩さんのを既に聴いてしまったからどうしても比べちゃうんですよね。あとこの方は力強い生命力が持ち味だと思うので悲劇のヒロインよりも陽オーラの力強いキャラが向いてるんじゃないかな?とも思ってしまいました。もちろん愛希さんが悪いと言ってるんじゃないですよ。かなりの実力の持ち主というのは納得済みの上でもっと合う役あるじゃ~んと惜しく思うのです。

この作品色彩的にもこだわりが見られます。さっきも書いたけどパリの街並みの場面は色彩豊かで街灯もカラフルです。対して地下のエリックの住処にも街灯が出てくるのですがそれはくすんだ暗い色で対照的。またクリスティーヌのドレスもビストロの場面では鮮やかな黄色です。周りの人達はモノトーンの服なのでより一層目立ちます。でも後になるともっと深い意味があったことが判明。ビストロでの成功の後シャンドンとキャッキャウフフで歌うじゃないですか。そこでの踊りがララランドになっててそーゆーことかーー!とニヤッとなりましたw そういえば背景もララランド風だったし。こういうくすぐり楽しいです。

悲劇っちゃあ悲劇なんですがコメディ要素もあってその一角を担っているのがカルロッタ。クリスティーヌを陥れるし確かに強欲なんですがコミカルさがなぜか憎めないんですよね(カルロッタを演じてるエリアンナさん来年のChessではスヴェトラーナ役なんでそれも楽しみ!)。ショレとのバカップルぶりも楽しい。これも子供の時にドラマ版を見た時はエリック視点で「ひどい人間だ!」と憤慨していたのですが大分年をとって私も丸くなりましたw 大人目線だとコミカルな描写と相まって悪役でも小物に思えてくるのです。年齢と共にスレたってことでもあるんでしょうがそんな体験をできないまま大人になったのがエリックなんでしょう。クリスティーヌに何かと便宜を図ってくれるジャンクロード(元々はおじさんなんですが今回はきびきびした若い女性が演じてました)や、キャリエールと旧知の仲で最後の最後に願いを聞いてやるルドゥ警部も悪い人じゃないし、エリックが思うほど地上の世界は憎悪にまみれてないのがまた皮肉。

そう言えば今回の舞台ではシャンデリア出てこなかったんです。それではどうしたかと言うとエリックがアルセーヌ・ルパンや怪盗キッドのようにマントをはためかせながら上から降りて来ます!これはこれでカッコええ!アンドリュー・ロイド・ウェーバー版とは違ってシャンデリアが演出上どうしても必要という訳ではないじゃないですか。これも全然ありだなむしろよく考えられてるなシャンデリア作るのお金かかりそうだしwと思いました。誰にも姿を見せたことがない闇に生きる男が好きな娘の危機に颯爽と現れるなんてエンタメの十八番だよね!!ベタだけどこういうのでいいんだよ!あと白い紙吹雪が降ったり宙吊りになったり盆が回ったりなんてのもあります。ホント何でもありです。

最後にアンケート書いてきたんですが、今回梅芸主催ということで張り切っていたんですよ(何がって?そりゃアレに決まってますよね)。それが「上演して欲しい演目や出て欲しい役者を書いてください」の項目がないでやんの!何のためにここまで来たと思ってるの!?(ファントム観るためでしょ)このままじゃ帰れないよ!と思って舞台の感想書くところに無理やりこじつけて「再演待ってます♫」と書いて来ました。我ながらドン引きの行動だけど、かといって空手で帰れないじゃないですかー梅芸の関係者がここ見てるとは思えないけどミミズがのたくったような悪筆で書いたアンケートは私のものでーす。次はチェス観に行くんでその時はアンケートに例の質問忘れないで下さい!

“梅芸版「ファントム」感想” への6件の返信

  1. こんにちは。城田さんのトークショーで、チケット売れてビジネスとしては成功扱いなので遠くない将来再演あるみたいなこと言ってました。

    1. コメントありがとうございます。嬉しい情報ありがとうございます!梅芸はそういうとこフットワーク軽いですよね。同じく瞬殺だったスカピンは翌年に再演ありましたし。しかし私が再演を望んでいるのは2017年に梅芸主催で上演されたパジャマゲームという演目なんです。ツイッターでもこのブログでもしょっちゅう再演再演吠えているのでフォロワーさんにはおなじみのネタ(本気ですけど!!)で敢えて明示しなかったのです。分かりにくい表現で申し訳ありません。そんな訳で梅芸が関わっている舞台を観に行った時は必ずアンケートに書いています。時々心が折れそうになりますけどw

  2. 初見でしたが、ニンじゃなさそうな役を実力でねじふせ、やり切った愛希れいかさんはすごいと思いました。
    もっと踊ってるところを見てみたい。
    宝塚に興味湧いてきました。

    1. コメントありがとうございます。愛希クリスティーヌの評価を見るとやはりベラドーヴァのシーンがよかったという人多くて「皆同じところを見てるんだな」と思いました。宝塚時代もダンスの評価が高かったのが頷けます。来年はフラッシュダンス主演だそうで、あの映画をどうミュージカル化するのか分かりませんが彼女にぴったりな役だと思います。スチュワーデス物語の主題歌にもなったあのテーマソング(歳がバレるw)も出てくるのでしょうか?

      1. お返事ありがとうございます。
        ダンスも素晴らしかったのですが、お芝居もとてもうまくて説得力がありました。
        空間を支配する力がある方ですね。 
        バレエをよく観るのですが、空間を一瞬にして自分のものに出来る一流のバレエダンサーと同じ力量をお持ちだなぁと。
        なぜこういう行動を起こし、こういう結果を招いたのかが違和感なくわかるお芝居を自然にやれるってなかなかすごい事だなと思いました。

        気になるのでFCに入る事にしました笑

        1. 引き続きありがとうございます。愛希さんに興味持たれたら宝塚時代の「BADDY」というショーがお勧めです。ショーなんですがお芝居の形式を取り入れていて一見変わってますが大好評だった作品です。その中で彼女は「グッディ」という役でとてもチャーミングで可愛いです。しかしトップスターとのデュエットダンスはぐっと大人ぽくなりこれがまたよかったです。

          と言っても私自身は宝塚のことよく分からないのでもっと詳しい方に聞けばもっと教えてくれると思いますw

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