「ハムレット」感想

いやー「ハムレット」って日本国内でさえしょっちゅう演ってるもんなんですね。今まで意識したことなかったけど少し注意して見るとこっちでもあっちでも上演してるんで「え?こないだのとは違うの?」と混乱してしまう。私でさえテレビで何パターンか見たことあるし。東西問わず色んな人がやってますよね。それで本っっっ当に失礼を承知で敢えて言いますが、藤間勘十郎さんの手がける舞台って観る前は不安混じりなんですよ!いやいやこれまで見せてもらったものはどれも満足できたからもっと信用していいのは百も承知なのですが、何が出てくるのか常に予測不可能だから「今度は一体どうなるんだろう?」と毎回ドキドキしてしまう。しかも今回は初の洋物でしょ!?抹茶スイーツのような「よくぞ掛け合わせた!」な絶品が出てくるのかきゅうりに蜂蜜をかけたメロンもどきが出て来るのか正直不安でした。

先に結論を言います。抹茶スイーツでしたw!どうせハムレットなんてn番煎じなんだから好きな事をやろうと開き直ったのか、新しいことに果敢に挑戦する歌舞伎の手法に則ったのか分かりませんが、ただの焼き直しじゃなくて斬新な切り口でよかった。というより今回のMVPは演出かもしれん。だから私「牡丹灯籠」の時も褒めたじゃないですか(手の平クルー)。代表的な場面を挙げると劇中劇あるでしょ、叔父が王を殺したのを示唆する内容のやつ。あそこが1人狂言になってるんです。着物を羽織って面を着けて、面の早替わりもあったりして、実際見るとこれが違和感ないんですよ。ハムレットが見得を切ったと言うと「えっ?」と思われるかもしれないけどけどこれがなかなか面白くて。これもアリだなと思ってしまう。古典ならば和と洋が合わさっても相性いいんだなというのを今回学びました。台詞や歌詞も古典や和歌や童謡から引用されてる部分があってこれがまた面白い。「敦盛」や「平家物語」や小野小町の百人一首の和歌とか。どれも「無常観」を表すものでハムレットの世界観にも底通するなと思いました。脚本もよく練られていたと思います。あとオフィーリアが亡くなる直前の歌の歌詞に「ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん」ってのがあって無邪気な歌詞の中に潜む狂気と彼女が溺死する運命も込められてるのがセンスいい!小川のセットはなかったけど歌詞の内容で察せられるのです。セット転換がない代わりに通路やバルコニーを多様した演出で目線があちこちに動くのも退屈させない作りだったと思います。通路を使うのはよくあるけど、観客席側面のバルコニーって普通裏方のスタッフしか利用しないよね?あれを舞台の一部として活用するなんて誰が思いつくよ?!両サイドから2人が会話したり歌ったりやりたい放題でしたw(褒めてる) あと振付の花柳まり草さんは元宝塚らしいんですが、ハムレットとオフィーリアのダンス(オフィーリアの想像という設定)がもろ宝塚のデュエダンなのもクスッとなりましたw 北翔さんも指導してあげたらしいです。実はまり草さん舞台に出ていたんですよね。直前に決まったからクレジットはされてないけど、登場人物を破滅に導く存在であるところの「狂気」という役でした。台詞はありませんでしたが、その人物の内面から発せられる感情を外在化させたような存在。この「狂気」がいたことで憎悪や衝動に突き動かされる登場人物の行動が理解しやすくなった気がします。とにかく狂言ありデュエダンあり観客を楽しませる仕掛けが惜しげもなくあって、これだけのアイデアが詰まった舞台が小規模で行われるの勿体ないとさえ思いました。

上演時間は休憩なしの2時間。音楽劇って歌ってる間は進行がストップするから時間内にまとめきれるのかと思いましたが問題なしでした。要所は抑えつつ駆け足にもならずきっちり収まってました。「牡丹灯籠」もそうだったけど藤間さんまとめるの上手!さっきから藤間さん褒め褒めだけど観る前はいつも不安になるというジレンマw

役者は7人のみという少数精鋭。ハムレット役は韓国のキム・ヨンソクさんなんだけど彼だけが見得を切ったり狂言をしたりするので馴染みのない所作にチャレンジするの大変だったと思います。主役だから歌う場面も多かったけどとにかくうまい!パワフルで見る者の心を一気に引き寄せる。韓国ミュージカルにハマる人の気持ちが分かりました。アイドルというカテゴリーの人でも実力があるのは日本との違いですね(日本のアイドルは成長を楽しむものだからね。好みの問題だけど)。惜しかったのは台詞。発音に気をつけるのが精一杯で演技することまで気が回らなかったような気がする。でも自分のフィールドでは圧倒的な存在感だったので言葉の壁を乗り越えて日本でも活躍して欲しいと思います。オフィーリアの栗原沙也加さんがそんなハムレットを支えていてよかったです。基礎がしっかりしてるなーと思ったら子役時代にアニー演ったんですね。あれでは兄がシスコンこじらせる(意味深)訳だわ。ルー大柴さんはまさか生で見られる日が来るとは思ってなかった。レアティーズとオフィーリア兄妹の父ポローニアスと墓掘りの2役。藤間さんの舞台これまで3作品観たけどどれもコミックリリーフがいますね。今回はルーさんがその役割でした。お話が煮詰まって来ると彼の登場によってワンブレス(一息)つけるんですよね。その他の方も歌の素養があって思った以上に音楽劇でした。

そして北翔さんです。事前のインタビューで「悪女なのか何も知らなかった母親なのか」と述べてましたが予想通り後者でした。藤間さんの作品って悪女でも止むに止まれぬ事情があって憐れさを含むキャラが多いのでこうなると思ってました。私が前に見たことある別のバージョンではガードルートが母親よりも女って感じでその癖息子の前では心配する母親面してたのが白々しかったんですが、今回の北翔ガードルートは何も知らず純粋に息子を思う母親色が強かったです。クローディアスとも色恋で結ばれたと言うより「国を維持するためには必要だから」と割り切って再婚した感じ。ハムレットと言うと誰もがやりたがる古典作品だから悩める若者という設定なのにおっさんが演じることもあるのはお約束じゃないですか(げふんげふん)。だから彼の憤りや苦悩も説得力あったけど、今回は本当の若者が演じたから青さが残る青年って感じで「もうちょっと大人になってかーちゃん自由にしてやれよ」と思ってしまったw もちろんそういう解釈もありだと思います。同じ話なのに色んな解釈ができるのも時を超えて上演が繰り返される古典の強みだと思います。

前回の「牡丹灯籠」では北村さんや三林さんらの「胸を借りる」感じだった北翔さんは今回は「胸を貸す」側でした。やはりミュージカルが彼女のフィールドなんだな。人目をひく長身と類い稀なプロポーションを活かすにはやはり洋物が向いてると思う。それに「もっと歌ってよ!」という気持ちが強くなってしまいました。今回の歌はハムレットとオフィーリアが中心だったので(でも1人ずつ必ず1回はソロ曲あるの几帳面だなと思いましたw)。コンサートだけではどうしても物足りない、芝居歌が上手な人だから芝居の中で堪能したいんですよ。去年から今年にかけて藤間さんの舞台に出演できる機会が多くて、きっと高い評価を得ているのだろうなと嬉しく思う反面、もっと色んな人と仕事して欲しいという気持ちが日々募っているのも事実です。母親役は今までに演じたことがなく新機軸ですが「10年後でもやれるよね?」とも思ってしまった。その前のお峰も出雲の阿国も同じ感想持っちゃったんだよね…ちょっとお仕事の方向性が固定化してしまってる感もあってブレイクスルーが欲しいところかなと。自分だけで決めてるのかな?オーディションとか受けないのかな?もっともっと行ける人だと思うんだけど本人はそこまで望んでないのかな?最近そんなことをぐるぐる考えている日々です。本人が気付いてない魅力ってまだまだあると思うんですけどね。その鉱脈を見つけてくれる人に出会って欲しいと願うばかりです。

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