さちみりほをひたすら推す その4

前回予告した通りさちみりほ先生のハーレクイン短編レビューの第4弾です。ハーレクインの漫画作品って大抵120ページ程度の読み切りなんです。長編なら一回世界観を作ってしまえばずっとその世界の中で遊べるけど、短編は作品ごとに一から新しい世界を構築しないといけないから実は長編よりエネルギー使うのではなかろうか。あと、原作の小説読むと日本人の感覚と価値観が違ってたりヘンテコな展開のものも少なくないんです。数が多いから玉石混交にもなりますわね。だから一般的には原作リスペクトがいいとされてるけど、ハーレの漫画化に限っては漫画家さんの裁量で大胆にアレンジしてもええんやでと個人的には思う。原作通りに描いたのに漫画家が批判されるのも理不尽ですしw 一読者としてはとにかく面白い物が見たいと私は思う。

身代わりの侯爵夫人

19世紀半ば?くらいの英国が舞台。シャーロットは双子の妹クラリスの身代わりとして侯爵のニコラスに嫁がなくてはならなくなった。父がパリの賭博場で賭け金がなくなり、代わりに同行していたクラリスを賭けるとニコラスに約束、そして負けてしまったのだ。ニコラスも結婚願望はないのに親戚から身を固めろと催促されていたからその条件を飲んだ。侯爵家に嫁ぐことは却って願ってもないことだったが、ニコラスがクラリスの窃盗を目撃してしまいクラリスは失踪。かと言って借金を返す宛もなく契約を遂行するために見た目そっくりのシャーロットがクラリスになりすますすぐにバレちゃうのですが。双子ながら対照的な性格のシャーロットは誠実で優しいだけでなくとても聡明で、後半貧困にあえぐ集落に手を貸すシーンが出てくるのですが、ただ施すのではなく雇用を創出した方がより広く効果が波及するのを理解していてすごい。ニコラスが領地経営を蔑ろにしたり結婚に投げやりなのは理由があるのですが最後の大団円はほろっと来てしまいます。でも細心の注意を払わないとおかしな話になりそうな危うさも孕んでいて、その辺りじっくり練られて隙がないのがこれまたすごい。原作にさちみマジックがかけられているのではと思う。

https://www.harlequin-library.jp/book/comic/id/c02891

蝶に魅せられて

ハーレクインって男女の恋愛がテーマだけど、さちみ先生の作品は人間ドラマの中で恋愛模様が進行していると思うことがよくあります。それを特に強く感じたのがこれ。伯爵のニコライがロンドンにいる独居の叔母を訪ねるとガラの悪そうな若い女性、リーザが玄関に現れた。素性を聞くと一流の証券会社に勤めるトレーダーで彼の叔母と同居しているとのこと。ニコライは訝しむがそれは事実だった。男に頼らず1人で強く生きると胸を張るリーザ。しかし彼女には誰にも言えない秘密があって蝶のタトゥーを晒して片手でトロフィーを掲げるシーンがめっちゃ逞しい。だから彼女の脆い部分がより際立つというか。馬鹿にされたくなくて家族を救いたくて必死で頑張るのにどんどん自分の居場所がなくなる切なさ家族との軋轢は読んでるこちらまで胸が苦しくなります。特にいいなあと思ったのは、最後母親を悪人にせず救いを与えたところ。彼女を断罪するラストもありだと思うんです。でも彼女は彼女なりに努力していたのを認めたところが温かい。それにしても「海外だとタトゥーはメジャーなんだよ」と聞いたことあるけどこれ読む限り海外でもそれなりの覚悟を持ってやるイメージ。セレブが自慢気に披露してるのは格好よさげだけど、私が見た実物は落書きじみてたり痛いのが我慢できなかったのか途中で終わってたり年月が経って輪郭が滲んでいたりとダサいものばかりだったので、現実はそう甘くないと思います

https://www.harlequin-library.jp/book/comic/id/c01337

塔の中のペルセフォネ

社交的な場が苦手でコンプレックスを持っている貴族の娘ペルセフォネ。彼女は馬で遠乗り中に偶然盗賊団を目撃してしまう。襲われそうになった窮地を救ったのが隻眼に片手がフック船長のような鉤爪の男「ハデス卿」。雨に打たれて熱を出した彼女は塔のある男の根城に匿われる。身をやつしても只者でないことは彼女にも分かった。やがて忘れがたい印象を残したまま別離を迎えるが意外な場所で再会しさちみ先生の描くヒーローはノーブルな気品があるので髭のあるお顔は珍しいんです。でもまた髭ヒーローに挑戦して欲しい!再会した時「あ、髭剃っちゃってる」と思ったのは秘密。貴族だから仕方ないですが。後半はミステリー色が強くなっており、なぜ彼が変装して隠密行動していたのかその謎が明らかになります。そしてやはり脇役が生き生きしてるのが面白い。最後は「この人がこう来たか!」となること請け合いです。それにしてもペルセフォネを匿った男が「ハデス」と名乗るのうまくできてますよね。この時点である程度教養あるの分かりますもんね。

https://www.harlequin-library.jp/book/comic/id/c03107

子爵と恋の迷宮へ

子爵の次男セバスチャンは父と兄を殺害した容疑で逮捕され、友人たちの手で逃亡し行方をくらましていた。隣の敷地に住むイザベルは医師だった父の遺品を整理するうちに日記を発見し、その記述がきっかけでセバスチャンの容疑が晴れ6年ぶりに領地に戻ってきた。しかし主人が不在の間荒れ放題だった領地から使用人の白骨遺体が発見され再びセバスチャンが疑われる。ヒロインのイザベルは趣味と実益を兼ねた狩猟をしたり、自ら畑を耕したり、領地内の不満は自ら子爵に直談判しに行くなど逞しい。その勢いでセバスチャンに「自分が疑われたままでいいの?」と発破をかけて2人で捜査し始めるというミステリー要素もあるロマンスです。これは原作も読んだので色々比較できるのですけど、アレンジがいい!特に真犯人のおっとこれ以上はネタバレになるので言えない。あとヒーローの人間像も深みが増してていいです。冒頭だけ読むとただのポワポワした坊ちゃんなんだけどねおっとこれも詳しくは言えない。とにかく最後まで読むと印象変わります。原作の軽快なロマンス+ミステリーに人間ドラマの深みを与えたのはさちみスパイスですw

 

https://www.harlequin-library.jp/book/comic/id/c04588

かわいい訪問者

何作目か分からないくらいの赤子シリーズです。しかも今回は双子。ワーカホリックの社長ディーンは友人の医者エリックと秘書キャスリンの差し金で10日間の休養を命じられた。エリックの別荘で暇を持て余していると玄関に双子の女の子の赤ちゃんが置かれていた。慌ててキャスリンを電話で呼んで2人でてんやわんや双子の世話をすることに。職場では見られなかった素の姿をお互いに見出して距離が縮むがというお話。キャスリンは仕事は有能、化粧もバッチリで隙がなく金持ち旦那ゲットするぞ!と野望があるんですが、変な男に捕まるくらいなら1人の方がマシよと資格バリバリ取って外見だけでなく中身を磨くのに余念がないところに好感が持てる。ディンに女だからって赤ちゃんの世話できると思わないでよ!と言うのはその通りなんだけど1人になった時に引かれちゃったかなと反省するのがかわいい。ディンも仕事一筋だったのが双子の面倒見るうちにだんだん変わって自分を見つめ直すんですね。双子を捨てた母親にも優しい視点が注がれ、悪人がいないお話に癒されます。捨てたのは悪いけど10代で産んで1人で双子は誰でもきついよね…それでいて笑えるシーンも多いです。個人的お勧めシーンはつけまが取れるとこw 感動的な場面なのにw

https://www.harlequin-library.jp/book/comic/id/c04654

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