新ロシア版ホームズ #2石、ハサミ、紙

なるべくネタバレは防ぎたいと思ったものの、第2話にしてマイルールを破らざるを得なくなった。どうしても詳しく語りたいことがあるとネタバレは避けられないらしい。この2話は主軸のストーリーも去ることながら、今後の展開に繋がるキャラも顔を見せるので盛り沢山の内容なのだ。

前回触れたように第1話冒頭のワトソンのモノローグでアフガニスタンの戦争について触れた時「スモール中尉に助けられた」というフレーズが出て来る。第2話ではそのスモールが瀕死の状態でワトソンの元に転がり込む所から始まる。彼は宝石類をワトソンに託して生き絶えた。そこへレストレード警部がやってきたが、ワトソンはスモール中尉との関係を否定し宝石も隠した。ロンドンで御者として働いていたスモールが宝石を盗んだと言うのだがワトソンは昔の仲間が犯罪を犯すとは信じられない。手掛かりを探すためホームズとワトソンはスモールの娘がいる孤児院に行く。そこで娘からスモール始め軍人達と謎の教授が写った写真を得る。そして偶然にもワトソンの上司だったショルトー大尉に再会。3人は意気投合するが、写真を狙う者が出てきて…

今回は「あの人」ことアイリーン・アドラーが出てきます!女っ気ないwホームズ世界で別格と認められている唯一の紅一点キャラなので、原作では一回きりの登場にも関わらず大抵どの派生作品にも顔を出す重要キャラになっている。確か原作ではボヘミア王の愛人でホームズも認めるほどの頭の切れる女性だったはずだが、ここでは女山師?みたいなキャラ。ちょっと小物になったなー、しかもホームズと恋仲だったというのだから驚きである。そしてもっと驚きなのはホームズが情熱的な一面を持っていると言うこと!アイリーンは才知と言うよりも色仕掛けでホームズを翻弄し出し抜く。もうお前なんか嫌いだと言いながら簡単に振り回されるホームズの挙動不審ぶりは笑えるしちょっと憐れで可愛い。

もう一人登場するのは兄のマイクロフト。ここではなぜか背中しか見せず(あーこれ何かの伏線だ)。政府のお偉いさんでホームズが好き勝手できるのもお兄さんのおかげらしい。そしてお馴染み宿敵のあいつの存在が示唆される。ここではぼんやりした写真とイニシャルのみだが。

第2話で印象に残るのは軍人としてのワトソンの一面。回想シーンとしてアフガニスタンの戦争の体験が描かれるがこれがなかなかエグい(戦争だから当たり前だが)。ここから分かるのは武闘派wワトソンが如何に作られたかということと、ワトソンの戦友に対する熱い思い。共に死線をさまよい自分を助けてくれた戦友が今は落ちぶれ極貧の生活を送り犯罪者の汚名を着せられている。友の名誉のため必死に否定するワトソンだが現実は…この辺の彼の心情はいかばかりのものか。だから真相を悟った時の静かな怒りに満ちた表情がとても怖い、その前にハドソン夫人に責められてたじたじになってる所や編集者に小説をケチョンケチョンに批評されてる場面を見ているだけにそのギャップも手伝って「これ怒らせちゃいけないタイプだ」と察するほどだ。

ここからネタバレに触れざるを得なくなる…なので改行。

 

 

 

さらに印象的なのは当時の人権意識の描写である。ワトソンが決闘を申し込んだ時、最初にインドの王子殺害の話を出しても周りの軍人達はせせら笑って取り合わなかった。ところが自分達の仲間が殺されたと知るや血相を変える。現代の私達の感覚からすると「えっ?」となるが、当時のビクトリア朝は自国民ですら底辺層はひどい生活だったことを考えると「未開の野蛮国」の人間の人権など構ってられないと言うのはまあ自然なんだろうなと思う。だからショルトーの排外主義も彼だけでなく、当時ある程度皆に共有されていた価値観なのではなかろうか?ショルトーの犯行の動機が排外主義だとしても、仲間の軍人達も多かれ少なかれ似た思想を持っていた。そしてワトソンはそこから脱却して新しい世界に踏み出していったというのが2話の裏テーマなのだと思う。そしてそんな当時の価値観を現代の価値観の観点から安易に裁かないという姿勢も好感を持った。

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