「ファントム」ドラマ版感想(追記あり)

今回はアメリカで製作されたファントムのドラマ版の話です。アンドリュー・ロイド・ウェーバー版と時期が被ってしかも向こうが大ヒットしてしまったため上演ができなくなり代わりにテレビ局に売り込みかけて作ったミニシリーズがあるというのは以前別記事に書きました。前にNHKで見たのは小学生の頃だけど面白かったし手元に置いておきたいからDVD買おうと調べたら、輸入盤すら廃盤になってやんの!あ、日本版は元々ないですよVHSは知らんけど。またこのパターンかよ!世の中にはきっとソフト化されてない優れた海外ドラマがたくさんあって、私はその大半を知らないまま終わるんだろうなあグギギ。そしたらヒカキンさんとかが活躍している某動画サイトにあったので見てしまった。金なら出すよ!出すから円盤出してくれよ!というのが本音なんですが、あれこれ語りたくてうずうずしてるのでここで思いの丈を吐き出してしまいます!

子供の時見たきりだから思い出補正かかってるかなと想像してたけど今見ても胸がギュルンギュルン締め付けられる!!普通にいい出来のドラマです。はあああ辛えーーエリック可哀想すぎるーー!英語で「私ならどんな顔見ても驚かないし一生側にいてあげるのにー!!」とコメントがあってその人と握手したくなりました。ささやかな国際交流ですねw

これはドラマ用に作り変えた作品なのでミュージカルの曲は使ってません。その代わり既存のオペラの曲が出てきます。そらまあオペラ歌手の話ですし。クリスティーヌもカルロッタもエリックも吹き替えだけど歌ってます。エリックも?!詳細は後述するけどそうなんです。

大まかな内容はミュージカル版と同じ。脚本家のアーサー・コピットがドラマでも関わっているから当然か。改めて見ると結構予算かけて丁寧に作ってるのが分かります。実際にオペラ座でロケした映像もある。地下のシーンはどこでどうやって撮ったんだろう。水面に反射した光が顔に写るようになってる辺り凝ってます。地下ピクニックのシーンもとても幻想的で美しいんだけど、クリスティーヌに裏切られたエリックが怒りと悲しみに任せて破壊し尽くすとただの書き割りだったことが判明して結局廃墟しか残らず、彼の心象風景を表してるようでした。そういう所の演出もうまいんですよ。

ミュージカル版観たばかりだからここの場面は歌があった方が盛り上がるなというのは確かにあるんだけど、台詞のやり取りにうまく落とし込んでいて案外違和感を感じませんでした。例えばALW版の「Music Of The Night」の場面をドラマに移植するのって難しいと思うけど、「ファントム」の場合「歌だけで説明する」場面ってそういや少ないんですよね。抽象的概念的な歌が余りないんです。

役者さんもいい人達が揃ってます。まずエリック役のチャールズ・ダンス。英国出身の俳優さんです。今ではすっかりイケオジになられてあちこちの作品に引っ張りだこみたいですね。この作品でもセクシーかつジェントルマンでため息出るくらいに素敵です。生まれた時から地下に暮らしてあの紳士的な身のこなしは学習できないだろ…と自分の中のツッコミ人格が囁くけど気にしないw!ちょっと皮肉屋の面もあってこういうところ英国俳優ならではだよなあと勝手に思ってます。お気に入りはキャリエールに自分が父親だと言われた時の「やっと言ったか」みたいな態度。キャリエールの「え?知ってたの?」な反応と合わせてツボでしたw とにかく目力がすごくて、仮面を着けて本来表情が見えないはずなのに細かい心の機微が手に取るように分かるのがいいです。

あとはキャリエールのバート・ランカスター。殆ど映画の知識がない私でも名前位は聞いたことがあります。オープニングを見ると彼の名が一番最初にクレジットされてるんです。最初見た時はそんな事知らず「何て深くて味のある演技をする俳優なんだ」と思って調べてみたら有名な人だった。キャリエールってご存知の通りひどい奴なんですが、寡黙な佇まいの奥に隠された苦悩や葛藤が如実に表れていて憎めないんですよ。エリックの身を案じることも、オペラ座の惨劇をこれ以上拡大してはならないことも両方痛いほど分かっていて、でもどちらかを選ばなくてはならない苦しみが伝わってまた泣けてくる…陳腐な表現だけどいぶし銀の存在感です。

ミュージカル版と比べて違う箇所は色々あるけど大きいものは二つ。一つはフィリップ・シャニー(ここではシャンドンではないのです)伯爵とクリスティーヌを幼馴染設定にしたところ。子供時代に巡り合って仲良くなったけど身分差(こちらのクリスティーヌは階層低めに設定されてます)もあり大人に引き裂かれ、大きくなってから偶然再会したという設定。回想シーンも長めに取ってあります。だからフィリップの存在感が大きくなってます。終盤はエリックとクリスティーヌの関係に嫉妬しつつ協力してあげてる。金持ちイケメンというだけでムカつく存在だけど彼は彼なりに耐えてるんですよね。

もう一つは、ラスト近くでクリスティーヌとエリックがデュエットする場面があるんです。地下ピクニックの場面の後クリスティーヌが命からがら逃げてきたけどすぐに後悔して「私なんて事をしてしまったの!彼はきっと死ぬわ、彼を救いたい!」と言い出してある計画を立てます。オペラの舞台に彼女が出演して彼に歌声を届けることでメッセージを送るというもの。演目は「ファウスト」。「彼ならこの演目を選んだ理由がきっと分かるはず」とのこと。果たしてクリスティーヌの歌声に導かれるように彼は5番ボックス席にやってきます。そこで舞台上にいるファウストの役者のお株を奪ってクリスティーヌ(ヒロインのマルガレーテ役)とデュエットするのですw ミュージカルならまあアリかなな演出だけどドラマで大真面目にやられるとおよよよよ?????と戸惑うw オーケストラもそのまま演奏してるし、警察も張り込みしてるのになぜか2人が歌い終わるまで待ってるしw でもこまけえことはいいんだよ!これは2人の愛の交歓なんです!ツッコミ入れつつも感動してしまうチョロい私。具体的には、劇の終盤ファウストが恋人のマルガレーテを牢屋から救い出しに来るんだけど、彼女は正気を失っていて「一緒に逃げよう」とファウストが促しても「愛しいあなた」と答えつつその場を離れないでいるという場面なんです。これって「貴方のことは愛してるけど私はこっちの世界に留まります」というクリスティーヌのメッセージだよね。こういう伝え方しかなかったんだろうけど納得して貰えると思ったのかー?案の定この後エリックはクリスティーヌをお姫様抱っこで連れ去りオペラ座の屋上へ逃げてラストシーンへと繋がります。

他にもドラマだからこそ詳しく説明されてて、ミュージカルを観た後だと作品世界の理解を補完してくれます。例えば、エリックが思うほどに地上の世界の人達ってひどくないんですよね。ジャン・クロードはいい人ぶりがより分かりやすくなってクリスティーヌにあれこれ便宜を図ってくれるし、ルドゥ警部もキャリエールの旧友で人情味のある一面が描かれています。ショレはよりコミカルに、カルロッタでさえもやった事はひどいけど小物臭がして憎みきれない。でもエリックにとっては地上は悪意の塊なんですよね。彼がそう思うのも無理はないけど。全然関係ないけど、私も昔見た時カルロッタの非道さにすごく腹が立ったっけ。今は「小物だな」と思う辺り年を取ったのだとしみじみ感じますw でもエリックには経験を積んで成長する機会がなかった、良くも悪くも染まれなかった。だから彼は地上の世界において「異物」となり排除されたのかもしれない。そんな彼に「夢はきっと叶うさ」と言わせるのだからなかなかエグい脚本だと思います。

とにかく、どんな些細なことでも声を上げれば「夢は叶う」かもしれないのでwこの作品の良さを伝えて宝塚版ミュージカルのヒットにあやかってDVDが再販になればいいなと思います。

20190221追記

ツイッターの方に書こうと思ったんですが長くなりそうなのでこちらへ。ファントムのブルーレイが我が家にも届いて早速見たんですがある事が気になりました。キャリエールが語るベラドーヴァの回想シーン、若キャリが「どうして君は僕を愛してくれるんだい?」と尋ねるとベラドーヴァが突然歌い出すでしょ。質問の答えになってないやんw キャリエールもそりゃ驚くよなと最初は思ったんですが、ドラマ版を見るとこの辺もう少し分かりやすく説明されてるんです。ベラドーヴァと2人きりの時に彼女が突然歌い出しその歌声を聞いて彼は驚きます。ベラドーヴァは元々オペラ座のバレエダンサーであって歌手ではなかった、その彼女がこれだけ歌えるということに驚いたのです。ミュージカルでもキャリエールが「天使のような声は初めて聴いた~」と歌ってるからそれは伝わるのですが。その時彼女は「歌はとても個人的なもの、愛を交わすのと同じ。愛する人とだけ共有したい」と答えています。しかしキャリエールは自分のものだけにしておくのはもったいない、と彼女に歌手になることを勧めたという次第。このやり取りがミュージカルではカットされてるからベラドーヴァがただの不思議ちゃんに見えてちょっと不憫w とはいえ、この場面はハスキーがかった声で「やめろおぉぉぉっーー!」と絶叫する永久輝さんと絶望に苛まれ聖母マリアに慈悲を乞う望海エリックに全てを持っていかれるんですがねw

因みにベラドーヴァの台詞は後の伏線になっていて、舞台で声が出なくなったクリスティーヌをエリックが地下に運んだ際、混乱するクリスティーヌに子守唄を歌って眠らせる場面があるんです(ここはミュージカルでも似たシーンありますね。望海さんに歌われたら寝るのもったいないけどw)。あと先に言及したファウストのデュエットの場面。この2つは「歌は愛する人とだけ共有する」というのを息子であるエリックが守ってるんだなあと思いました。ミュージカルは歌そのものが表現だからこの辺が分かりにくくなっているけど、「人は愛や喜びのために歌うのであって何かを手に入れるために歌うのではないのだ」という台詞に継承されているような気がします。ホントピュアな発言だよね…カルロッタを殺した後なのにさ…

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA