「怪盗ルパン伝 アバンチュリエ」感想

外にも出られず巣籠もり生活が続く今日この頃皆様いかがお過ごしでしょうか。私は元々引きこもり体質のせいか、観劇の楽しみが奪われたこと以外は(これはこれで大ダメージだけど)何とかやっています。幸いにも無料公開してくれる舞台の動画を見たり興味あったけどスルーしていた漫画を電子書籍で読んだりなかなかの充実と言いたいところだけどなぜか最近毎日変な夢を見る、湿気で固まった砂糖をひたすら指で潰す夢とか(駄目じゃん!)。「パジャマゲーム」に出会ったことで観劇感想メインになったこのブログですが、元々は海外ドラマや文芸作品についてIQゼロの萌え語りをするつもりでした。でもこんな時期なので原点回帰という訳で今回はアルセーヌ・ルパンを取り上げます!

今までホームズの記事を何個も挙げてる私ですが、実はホームズより先にルパンに出会っていて何を隠そう昔はルパン派だったのです。三世の方じゃないよ、三世の元ネタである、20世紀始めにフランスの作家モーリス・ルブランが生み出した怪盗紳士アルセーヌ・ルパンのことです。昔ポプラ社から児童向けのルパン全集が出ていて、小学生の時に結構まとまった数を従兄弟からもらい受けたのがきっかけ。同じく江戸川乱歩の怪人二十面相シリーズも貰ったけどいくら子供向けにマイルドにしたとは言え、アレで性癖が歪んだ人も少なくないんだろうな(遠い目)。いかんいかん話が逸れてしまった、ルパンの話でした。当時胸を躍らせながら怪盗ルパンの八面六臂の活躍を読んでました。女性にもめちゃモテて乙女心をくすぐるキャラクターなところがよかったのかもしれません。

でもルパンって子供向けの全集から発展しない。何せ大人向けの全集がないのだから。後から知ったけどポプラ社のは訳者のオリジナル要素が結構あるらしいんです。じゃあ大人になって原作を読もうにも代表的な作品がいくつか文庫本で出てるだけで、ホームズのように色んな研究家が考察本出したりファンが二次作品を作ったりグラナダ版のような有名な映像化作品もない(全くないわけではないのですが)。予告状やマスコミを使って大衆を煽る大胆不敵な犯行手口、変装して敵味方を欺く、片眼鏡をかけシルクハットを被り夜会服にマントを羽織った特徴的なコスチュームエトセトラ今ではお馴染みになったお決まりのモチーフはこれが元祖と言ってもいいくらい。なのに肝心の元ネタはほぼ忘れ去られてしまったのです。という訳で子供の時はルパンかホームズかって感じだったのが、成長するに従ってホームズオンリーになってしまいました。おまけに!誠に恥ずかしいんですが、今ではどういう話か殆ど忘れていた!覚えていることと言えば奇巌城の衝撃的なラストと何かの作品で失神した美女にルパンがちゅっちゅっしてたシーンくらい。後者についてはときめくと同時に「フランス人ってすげーなー」と子供心に呆れたっけw

前置きが長くなって申し訳ありません。そんな子供時代の読書体験からン十年。超久しぶりにアルセーヌ・ルパンの世界に触れました。それが森田崇先生の「怪盗ルパン伝 アバンチュリエ」という漫画。評判いいのは知ってたけどこれがめっちゃ面白いの!忙しさにかまけてスルーしていた自分を呪ったw 原作にかなり忠実だからルパンってこういう話だったんだ!と新鮮な驚きが得られました(前に読んだはずなのにw)。プラス日本人には分かりにくいフランスの歴史や20世紀初頭の文化風俗がイラスト付きで詳しく説明されているからとても分かりやすい。ルパンと言えばお宝、お宝と言えば歴史との因縁が深いという事で、ルパン物語は歴史ロマンとしての側面もあるんですね。それに昔読んだ時は推理小説のイメージだったけど実際は冒険活劇の色合いが濃いことが分かりました。と同時になぜ私がすっぽり忘れてしまったかも何となく察せられた。文字だけで説明されても分かりにくい事柄が多いのですよ。例えば密室ミステリーの謎解きとか奇巌城の仕組みとか地理的な位置関係とか。絵で説明してもらわないと分からないことが多い。それにフランスの歴史もきっと知らなかったよねえ。小学生だからフランス革命のルイ16世とマリー・アントワネットさえ知っていれば上出来だったのでは(今でも変わらんけどw)。昔の私はどれだけ理解して読んでいたのだろう楽しかったという経験だけは覚えているのだがw

あと、これは少し言いにくいのですがちょっと?いやそれなりに?「こまけえことはいいんだよ」系の作品なんです。矛盾点や疑問点やツッコミ所はそれなりにある。だから大人になっても鑑賞に耐えうるか?と見なされホームズよりメジャーになりきれないのかもしれません。でもこの「アバンチュリエ」、そんな懸念を吹き飛ばすかのような作品です。とにかくルパンの面白さを広く知らしめたい!という愛と情熱に溢れてます。スピード感のある展開で面白さがツッコミ点を凌駕しています(漫画という表現手段だからハッタリが効いてツッコミ所がそんなに気にならないのもあるかも)。それに途中で何度か挿入される解説が懇切丁寧で深く研究されてることが窺えます。そんな人が描く作品だから作者ならではの解釈もしっくり来る。情熱とエネルギーに溢れカッコよく若々しいルパンの姿が新鮮。数十年ぶりにルパンのイメージが刷新されました。いやポプラ社の挿絵も味があってよかったんですがやはり時代の波には勝てない。昔の007や天知茂のような古式ゆかしきダンディーさだから現代にそぐわなくなっていたのも事実。ルパンに新たな命を吹き込んだと言っても過言ではないと思います。それに天才的な思考のはざまに垣間見える狂気の描き方がうまくて。高笑いと共にケレン味溢れる啖呵を切る表情がイッちゃっててたまらんのですよ。こういうのは漫画でしかできない表現だよなあと思います。私は「紅はこべ」が好きなほどなので「こまけえことはいいんだよ」は大歓迎。それを上回る面白さがあればOKです。それでもルパンは紅はこべのようなスカッとしたカタルシスとは微妙に違っていて、胸の奥がチリチリするような余韻が残ります。それは多分ルパンの奥底に潜む闇と孤独と狂気にゾクッとするからかも。義侠心に厚く女と子供に弱い、どんな手を使っても殺人だけはしない、そんなところが彼の弱さであり魅力、そして最後の最後で運に見放されない強みなのかもしれません(強いのか弱いのかどっちなのw)。でも善かと言うとそんな単純に言い切れない。結構ワルなところもあるんですよね特に若い時は。そんなアンビバレントな性格が「アバンチュリエ」できちんと描かれてて「この作者分かってる!」と唸ってしまいました。

ツイッターで紹介した時「ホームズファンにもお勧め」と書いた気がするんですが、後になって考えるとそれは違うかなと思い直しました。ルパンシリーズには何とホームズも結構出てくるのですよ!20世紀の始めと言えば「著作権?何それおいしいの?」状態だったから作者のルブランさんがルパンのライバルとしてホームズを出して来たんですね。でもそれを知ったコナン・ドイルが不快感を表明したとかで名前を変えた。その名前が「エルロック・ショルメス」というのはなぜか覚えてたんですが、これはフランス語読みだったらしい。英語読みだと「ハーロック・ショームズ」らしくて殆ど頭文字を交換しただけじゃん!とズコーとなってしまいましたw ではハーロック・ショームズはどこまでシャーロック・ホームズなのか?と言うとちょっとよく分かりません。ルブランはホームズのつもりだっただろうけど、ホームズファンでもある私から見ると本物のホームズがしなそうな言動をこのショームズさんしてるんですよね。ワトソン(ここではウィルソン)がルパンの部下に襲われて骨折させられた時なんかそんなに心配してる風でもなかったし。何だかんだ言ってワトソン大好きマンのホームズだったらここはガチギレするはずです。あとルパンにしてやられた時の反応がホームズにしては大人気ないかなとか極め付けは奇巌城ねネタバレになるから詳しい言及は避けるけどあの役割をショームズにやらせるなんてその前の行動も彼らしくないしと思ってしまう。ルパン作品でのショームズ(ホームズ?)の描かれ方に不満なシャーロッキアンが少なくないようだけど私もその気持ち分かります。2人の対決は互角かショームズが勝ってることもあるのでルブランさんはホームズに敬意を表したつもりなんでしょうが、そこじゃないんだよ!ホームズがルパンに負けてもいいからキャラ崩壊は避けて欲しかったんだよ!「ホームズはそんな事言わない」がシャーロッキアンの総意だと思います。それなんで私も「これはホームズではなくショームズなんだ」と割り切ることにしていますw でも面白いことには変わらないからホームズ好きな人もあれは別物として読んでみて!

最後になりましたが、私が読んだのは「著者再編集版」というやつなんです。掲載誌を2つ経て「奇巌城」の完結で一度終わっていたけど、もっとこのシリーズを続けたいと森田先生が強く望んで連載再開すべくプロジェクトを立ち上げて活動しているとのこと。その一環で掲載順を並べ替えるなど電子書籍用に再編集したものが私の読んだバージョンです。著者自らが連載を続けるために活動する(SNSや電子書籍の発展により動けるようになった)なんてすごい時代になったなあと驚きました。これは「作家自身が発信できるなんて自由な時代になった」と好意的に受け止めるべきか、「本来なら出版社がやるべき仕事を怠っているせいで作家にしなくてもいい苦労をさせているのではないか」と受け止めるべきか迷ってしまいました。雑誌が売れない売れないと言いつつ出版社は何やってんの?似たような企画しか出せないくせにとちょっとイラッとしたのも事実。ちょっと話ずれますが、表現規制の話だって赤松健先生が自ら政治家に掛け合って理解を広めた経緯があるけど現役の漫画家が本来やる仕事なの?漫画家をサポートする立場の人間がやるべきなんじゃないの?と疑問だったことを思い出しました。それだといくらいい作品を描いても発信力のない/苦手な作家はどうなるんだろう、そういう人は淘汰されてしまう時代なのかなと寂しく思いました。

実はルパンを扱った作品は他にもあるんだけど長くなったのでそれについては別枠で語ります!それではまた!オ・ルボワール!

20200511 追記あり →こちらの記事

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