アバンチュリエ追記(訂正&奇巌城感想)

アバンチュリエ語り続き。前記事の後に追記としてちょっとした訂正をしようとしたら思いの外長くなったので独立した記事としてまとめることにしました。前の記事で「ポプラ社以外ルパン全集がない」みたいなこと書きましたが、偕成社からも出ていたんですね。ただ偕成社って子供向けの本の出版社というイメージなので(うちにある偕成社の本もノンタンやかこさとしだし)大人向けというのとはちょっと違うのかも。そもそもルパンって子供向け=大人の鑑賞に耐えられないと見なされてるのかな?

確かにシリーズの中でも有名な「奇巌城」なんか顕著だけど、少年少女向けのジュブナイルの様相を呈しています。1人の少年が大人になる過程で乗り越えなければならない壁として世紀の大怪盗アルセーヌ・ルパンが立ちはだかり、始まりは名画盗難事件だったのがスケールの大きい歴史ロマンに発展するというストーリー。確かにリアリティを求める大人からすれば荒唐無稽なんだけど二転三転するダイナミックな展開は大人も子供も関係なく胸躍るよな!と思うのです。そんなルパンシリーズを現代において再評価したアバンチュリエの果たした役割は大きいかと。

話が長くなるけど奇巌城の感想続けていいですか?(そもそも自分のブログで許可取る必要ないけどw)これ不思議な作品ですよね。読者はルパンの話を読んでるはずなのに彼と敵対するボートルレ少年目線で話が進み、段々ボートルレに感情移入して彼を応援するようになるけど最後は結局ルパンの物語に終結してるの。アバンチュリエの解説にあったように少年が大人になるのに克服しなければならない通過儀礼としてルパンとの対決が位置付けられているんだと思います。そしてボートルレが真相に近づくにつれ雲をつかむようだったルパンの存在感がどんどん増していく。いつの間にか読者はボートルレと一体化してルパンが一番大事にしている謎の解明に直面するという図式になっています。

でもただ敵対するだけじゃないんです。自ら罠に嵌めたのに遠回しに手助けしちゃうルパン。つーか一緒に冒険楽しんでるしw 「可愛くて抱きしめたくなっちゃうよー」などと言う辺りかなりお気に入りのようです(そこでの森田先生の描くルパンがキュートなんだ)。とは言え所詮は対立する立場、抜き差しならない勝負においては容赦なく叩きのめします。ボートルレはルパンによって何度も挫折と屈辱を味わされますがその度に這い上がってくる。ルパンも彼を正当に評価しているからこそ手加減せず対峙したんだろうな。その熱い関係性に薄い本を作りたくなる人も出てくるんじゃなかろーかw

今回目から鱗だったのは、奇巌城という作品がそれまでのルパン作品の集大成だったということ。その前に起きた事件が伏線となっていたというのはアバンチュリエで初めて知りました。だってポプラ社全集の場合第1巻が奇巌城なんだよ?一番有名だから最初に持って来たんだろうけど刊行順に読まないと分からないことがあるなんて思いもしないじゃないですか。アバンチュリエが日本におけるルパン観を再評価したというのはこういう所にも表れていると思います。

それにしてもこのボートルレ少年、アバンチュリエだとまるで女の子みたいなビジュアルだけど原作からして「ばら色の頬をした少女のような外見」と書かれててズコーってなりましたw しかしここではたと気付いた、これって小林少年の元ネタじゃね?「紅顔の美少年」そのものじゃん!そもそも怪人二十面相もルパンがモデルぽいし「黄金仮面」なんかルパン本人が登場してるし。江戸川乱歩どれだけルパン好きなんだ。少年探偵団はホームズに由来するのは知ってたけどルパンからもかなりの影響受けてますね。

ここからネタバレそれもかなり深層部に踏み込むのでご注意を。お恥ずかしながら子供の頃読んだきり殆ど内容を忘れてしまった私ですが、あの衝撃的なラストだけは覚えています。それでもアバンチュリエを読んでラストに至るまでの異様な緊迫感がひたひたと胸に迫りました。だって改心して真人間になるんだとうわ言のように呟くルパンを見て読者の誰もが「ルパンをやめるなんてできるわけねーべよ。もはや逃れられない業なんだよ」としか思えないもの。そのことは無意識下では本人も分かってるはずなのに、並外れて聡明なルパンが気付かないはずないのに、現実から目を背けて自分に言い聞かせる様が本当に鬼気迫ってます。アバンチュリエにおけるこの狂気じみたルパンの描写が光ってるんですよ(文章で読むと芝居がかって上滑りしてしまうのよね)。一方レイモンド、原作では彼女視点の心情が描かれることはなかったと思うんですが、アバンチュリエでは補完されていたのがこれまたポイント高かったです。レイモンドも自分が望んだこととは言えルパンがルパンをやめるなんてできないの分かっていたんだよなあ。だからこそ苦しんでいたんだよね。この話のクライマックスは、奇想天外な奇巌城の内部構造に胸を躍らせつつ、ルパンの彼らしくない焦りと常に何かに怯えたレイモンドの様子がこの先のカタストロフィを予感させて本当にドキマギします。これぞ読書の醍醐味!って感じ。

ここまで読んでアバンチュリエに興味を持ったあなた(と、にわかに通販番組テンション)!何と今なら、近日中に続編「813」が始まる予定なんです!「奇巌城」から10年、38歳になり髭を蓄え苦み走ったイケオジルパンのビジュアルを見ただけでもうちょっと生きていけそうな気がする!新作発表間近のこの時期にぜひ既刊を読んでください!特に著書再編集版としてアップデートされた電子書籍がお勧めです!どうせ外出られないしね、本屋行けないしね。それに何かと現実が辛い今、物語の世界に逃避してしばし羽根を休めるのもいいかと。我ながらテンションがうざくなってるけど(いつも深夜に書いてるのですいませんw)絶対に損はさせませんよ!

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