「VSルパン」「ルパン・エチュード」感想

前に「アバンチュリエ」の感想記事書いてからずっとやりたかった企画なんですが読書感想っていつでも書けるからついつい後回しになってすると内容を忘れてまた読まなきゃと再読したら時間忘れて真剣に読みふけってしまったやはり面白い!「VSルパン」はさいとうちほ先生、「ルパン・エチュード」は岩崎陽子先生、どちらも少女マンガの文脈からルパンを再構成した話ですが、アバンチュリエと同時期に2人の作家が同じ題材のルパンを手がけるってなか珍しいと思います。先鞭を付けたのがアバンチュリエでそれがいい感じで波及して別の作家の創作欲を刺激したということでしょうか。読み比べると素材は同じでも色んな解釈があるんだな〜と興味深かったです。そして当たり前だけど原作が面白い。息つかせぬ展開も魅力的なキャラ造形もみんな面白い。100年以上も読み継がれている作品の底力を感じました。

今回取り上げるのはどちらも女性が描いた作品なんですけど、やはり男性作家とは描き方が違うと思いました。三者三様でどれもいいんだけど、アバンチュリエはルパンが調子に乗ったりしくじったりと格好悪いところが目立つのに対し(もちろん格好いいところもたくさんあるけとダメなところも含めてアホかわいいんだよ!)、女性作家がルパンを描くと女性の憧れの象徴としてのヒーローの部分が強調されます。ルパンモテるし惚れっぽいしロマンスにも事欠かないからね。冷静沈着かつ豪胆な策略家としての一面もあれば自分でも抑えきれない衝動と危うさを抱えるアンビバレントな性格のどこにスポットライトを当てるかで見え方が変わってくるのでしょう。そういう意味でも実に多面的で本当の顔が分からないキャラだと思います。あと男性の持つ間抜けさやアホさって同性にしか分からないところがあるのでは。「俺たち男ってこんなに格好よくないじゃん」と自分ツッコミが入ると言うか。これは女性にも同じことが言えて、同性だからこそ分かる女の嫌な面ってあるよね。逆に異性に対してはストイックな理想をありったけ詰め込むからどっちもどっちなんですがw

それでは各論に移ります。まずはさいとうちほ先生の「VSルパン」なんですが、構成が巧みで展開がスピーディー。「プリンセスの結婚」「王妃の首飾り」「伯爵夫人の黒真珠」「赤い絹のショール」「カリオストロ伯爵夫人」「水晶の栓」と4冊の中に盛り沢山のエピソードだけど駆け足にならずに分かりやすい!クールで知的、シャープでセクシーと、少女漫画的に由緒正しいルパン像です。「水晶の栓」などルパン失敗しまくりでかなり追い詰められるけどそんな姿まで麗しい。ここでの悪役がとてもキャラ濃くて印象的。見た目も中身も悪どいのがよく表現されていて一回見たら忘れられないインパクトです。

次に岩崎陽子先生の「ルパン・エチュード」。金髪ふわっふわっのルパンですよ!何となくダークヘアのイメージありましたが金髪も萌える。岩崎先生の繊細な筆致で描かれるルパン大好物です!本書の大きな特徴はルパンを二重人格設定にしたこと。もしお母さんが生きながらえて裕福で幸せな生活をしてたらこんな性格だったんじゃないかなと思わせる、素直で善良だけどどこか底知れなさを抱える青年がラウル・ダンドレジー、その中に眠る怪盗としてのアルセーヌ・ルパンがふとした時に顔を出すという訳です。そして語り手かつ仲介役のような存在としてエリク・ヴァトーというオリジナルキャラの友人を登場させます。ここまで変えると本当にルパンなの?と思われるかもしれませんがちゃんとルパンしてます!原作とオリジナル要素の融合が非常に巧みで絵だけでなくお話にも引き込まれてしまいました。ちゃんと原作をリスペクトしているのが分かる。雑誌の終了に伴って?4巻完結らしいけど先生ご自身続けたい意思があるようだし私ももっと読みたい!

ところで、さいとう先生と岩崎先生のお二人とも「カリオストロ伯爵夫人」を取り上げてるのは面白いなあと思いました。ルパンシリーズには数多くの女性が登場しますが、そんなに個性豊かとは言えない気がする。いや細かくは色々あるけどそれでも彼の思われ人としての役割を出ないと言うか。その中で強烈な個性を放っているのがこの作品に出てくるジョセフィーヌ。まず存在が得体知れない。100歳越えとか言われているし何なん?辣腕を振るうかと思えば血を見ると失神してしまうし、残酷さと儚さを同時に兼ね備えていて捉えどころがない。そしてルパンの師匠であり恋人であり敵でもある。「奇巌城」でボードルレの前にルパンが立ちはだかったように、ここではルパンが一人前の怪盗になるためには彼女を乗り越えなくてはならない。男の運命を狂わせるファム・ファタールって男性にはある意味理想なのかもしれないけど、男性優位だった時代に自分から欲しいものを取りに行く女性(事の善悪は置いといて)は女にとっても新鮮です。彼女に翻弄されるルパンがまたいいんですよ。背伸びしてイキってて。クラリスとジョセフィーヌの間で揺れ動く姿がまだ青い。クラリスが善の象徴ならジョセフィーヌは悪の象徴。彼の心根は善性だけど悪の魅力に取り憑かれるの分かる。だって一緒にいると毎日が刺激的だし新しい世界を見せてくれるし自分が成長した気分になれるし守ってあげなくちゃみたいな庇護欲までそそられるし。でも当然ながらいいことばかり続かない。ジョセフィーヌのある行動を見てルパンがどういう判断を下したか、それが彼の今後の方向性を決定付けます。大袈裟な言い方になってしまったけど、それくらいルパンの人生において大切なキーパーソンなんです。これ以上言うとネタバレになるから控えるけど、ってもうネタバレしてる?!とてもよくできた作品なので読んで欲しい。

最後になったけど、アバンチュリエで「カリオストロ伯爵夫人」描いたらジョセフィーヌはどんな感じになるんだろう?ルパンの青さや若造ぶりはこちらの方が赤裸々に語れるような気がするんですが。言葉に出すと実現するっていうから言霊を信じてお願いしてみます。それよりアバンチュリエはまず「813」だな!

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