「バイ・バイ・バーディー」については以前記事にしたことがあって、その時「まさか日本で上演する事はないだろうけど」と書いたんですが、本当に上演する日が来るとは思いませんでした!本当にびっくり!多分この作品を話題にする酔狂な人間は私くらいだと思ってたから、これは見に行かなくては!と勝手に使命感を感じて盛り上がったので、有言実行で行ってきましたよ。
以前このブログで取り上げたのは5年前。当時YouTubeでアメリカの高校生が演じるミュージカルの動画を見漁っていて、そこでこの作品を知ったのです。単純なストーリーと言い、とっつき易さと言い、ノリの良さと言い、高校生が演じるには確かに最適な作品かも。モデルとなったエルビス・プレスリーやエド・サリバンショーなど古き良きアメリカの郷愁がぐっと詰まっていて、まるでシットコムを見ているような気分になります。とは言え、当時のティーンたちのプレスリーへの熱狂ぶりとか、エド・サリバンショーがどれだけ国民的番組だったか知らないとこのお話は理解しきれないんじゃないかな?と思ったのも事実。だから「日本では上演されないだろうな」と予想してたんです。
本作のコンラッド・バーディーのモデルがエルビス・プレスリー。多少の誇張はあるけど、当時の若い女の子が失神するほど人気があったのは事実なんですよね。歌いながら腰を振る動作がわいせつという理由で腰から下をテレビで写さなかったりなんてエピソードもあって、時代を代表するセックスシンボルだったのが伺えます。そんな人気絶頂期に2年の兵役に就くことになって女の子たちが阿鼻叫喚に陥ったエピソードがこの作品が作られたきっかけらしい。当時はまだ兵役制度残ってたんですね。あと、あんなに保守的で頑固親父だったキムの父親がいとも簡単に手のひらクルーしたのが「エド・サリバンショー」への出演が決まったから。これは当時のアメリカの国民的人気番組で、日本でも放送されたらしいです。日本で例えると…全員集合でドリフと共演できるとかそんな感じ?(例えが古い…)なぜ私がエド・サリバンショーを知ってるかと言うと、中学〜高校生くらいの時にNHKでアーカイブ番組やってたからです。黒柳徹子がコメンテーターとして出てたっけ。その辺知らないとエド・サリバンで讃美歌歌っちゃうあの浮かれようが伝わらないかも。
前置きが長くなってしまったので、あらすじに入ります。芸能事務所を営むアルバートは自社のタレントであるコンラッド・バーディーが兵役に就くことが決まって大ピンチ。そこへ有能な秘書兼恋人のローズが辞表を提出しに来ます。ローズは、アルバートに堅実な仕事(英語教師)に就いてもらいたいと思っているが、彼はズルズルと今の仕事を続けているし、なおかつマザコンで母親に頭が上がらないヘタレなので、愛想を尽かしたのです。アルバートは窮余の策として、コンラッドが兵役に行く直前に「One Last Kiss」という新曲を引っ提げ、ファンの子にキスをするというイベントの企画を思いつき、それが済んで一攫千金をゲットしたらローズの言う通り足を洗って教師になると約束します。それを聞いたローズは喜び辞表を撤回して協力することに。コンラッドのキスの相手として選ばれたのがシュガーアップルという町に住む16歳のキム・マカフィー。彼女はちょうどヒューゴという少年と付き合うことになったばかり。コンラッドから足を洗うわと宣言していたところに、キスの相手に選ばれ、本人のみならずみんな大騒ぎになってしまいました。そんな中複雑な気持ちを隠せないヒューゴ。アルバートはイベントの計画を進めるが、そこへ母親が茶々を入れてきます。母親はヒスパニック系のローズが気に入らなくて度々嫌味を言ってくるが、アルバートはマザコンのため強く出られません。さて、コンラッド一行がシュガーアップルに到着し、町は大騒ぎ。キムの父親は、軽佻浮薄で許せん!とぷんすかしてましたが、急遽家族全員が伝説のテレビ番組「エド・サリバンショー」に出られることが決まり手のひらクルー。番組内でコンラッドが歌の終わりにキムにキスをするという段取りになりました。一方アルバートの方ですが、母親が勝手に自分の気に入った娘を秘書に据え、断り切れないアルバートを見てローズの怒りが爆発します。そこでローズは、悶々とするヒューゴに接近して、彼を密かにエド・サリバンショーに潜入させることに。そこでコンラッドがキムにキスする瞬間、ヒューゴの拳がコンラッドに命中!その模様はテレビで全国中継されてました。そしてローズもアルバートに公開三行り半。必死に取り繕うアルバートが放映されるなか一幕終わり。
ふーーっ。なげーよ!自分であらすじまとめながら頭が混乱しましたが、確かにごちゃごちゃした話なんです。続く二幕冒頭では、ローズとキムが男って最低!と意気投合するのですが、二人共闘しちゃうんかい!と思わずツッコミ入れてしまいました。つまりこれは「考えるな、感じろ」「こまけえことはいいんだよ」系の作品なんです!60年代の作品だからこんな感じなのは仕方ないと思うんだけど、その分音楽がめっちゃいい!最近の作品は内容が深いのが多いけど、やはりミュージカルは音楽が命だと私は思います。耳に残るメロディがあるとないとでは雲泥の差があるというのが個人的な持論です。ストーリーはおざなりな分、音楽とダンスにはめちゃ力入れてたよね、昔は。「パジャマゲーム」を持ち出すまでもなく、私はこういう作品が好きなのでもうテンション上がってしまいました。も〜「正しさ」とか「社会へのメッセージ」とかそういうのいらない!現実世界で散々面倒くさい経験はしてるので、せめて舞台の上ではお祭りのどんちゃん騒ぎを見せてもらいたいのです!
このお話って主役のアルバート以外では、ローズとキムが肝だと思うんだけど、キャスト的にその二役がきっちり抑えられてるのが好印象でした。まずローズ役の霧矢大夢さん!もう彼女のオンステージと言ってもいいくらい大活躍でした!歌に踊りに見せ場たっぷり!彼女のファンなら絶対見なくちゃダメだと思う!ここに実力者持ってきたのは正解でした。誰でもできる役じゃないもん。私も彼女好きなので嬉しかったです。いくら実力があっても彼女くらいになると主役のサポート役に回る機会が増えてくるように思うんだけど、真ん中でこそ出せる華ってあるじゃないですか。今回それが如何なく発揮されていたのが貴重でした!あとはキム役の日髙真鈴さん!彼女は初めましてだったのでここまですごいとは思わず、正直めっけもんでした!リアル10代にしか出せないエネルギーとか瑞々しさとかキュートさとかひたむきさなどなどがキムという役とシンクロしていて、本当によかったです。キラキラ輝いてました。それでいて実力もしっかりしてるし、今後が楽しみな役者さんだと思いました。アルバートの長野博さんもヘタレ具合が絶妙だったし、コンラッドの松下優也さんもある意味損wな役回りだけどノリノリだったw ヒューゴも、キムの家族も、コンラッドガールズもみんなよかった。ジャニーズの舞台はしっかりしているという噂は本当だったのね。
でも!ここから注文になってしまうんですが、正直テンポがよくなかった。テンポの良さはコメディでは肝なんです!せっかく笑いどころが多いのに流れがぷつっと切れるところがいくつかあってそこが惜しかった。でも、オリジナルの脚本や演出を忠実にやった結果というのは分かっています。ただ、当時では普通だった演出、あるいは見せ場だったところが、スピーディーな展開に慣れてしまった現代の我々からすると、タルいな〜と思えてしまうのです。例を挙げると、一幕でローズがアルバートにキレて、彼をメッタメタにする想像をするシーン、二幕だと、謎の秘密結社?の集会にローズが乱入するシーン、アルバート母にヒスパニック系であることを馬鹿にされてキレる「スパニッシュローズ」のシーン。みんなローズのシーンじゃないか!これ多分ローズの中の人の見せ場を作るためだと思うんですよね、と推理した私はBW初演のキャストをチェックしたらチタ・リベラでした!伝説級の人じゃん!この方を説明するとかなり脱線するので興味を持った方はググってね。因みに初演のアルバートはディック・ヴァン・ダイク。こちらもレジェンドでした。話を元に戻しますが、他作品と比べて悪いんですが、「パジャマゲーム」でも似たようなシーンあるんですよね。「ヘルナンドスハイダウェイ」の後で、嫉妬深いハインズがグラディスが男たちと遊んでいる妄想をするシーンが本当はあるんです。これも初演でグラディス役の人が類い稀なるダンサーだったので出番を増やしたせいだと思うんですが、正直話の流れが悪くなってタルいです。だからトム・サザーランド版ではぶった切ってました。あとベイブの父親も存在ごと消えたはず。テンポを良くすることを最優先にしたのでしょう。私もそれが正解だと思う。いくら再演が繰り返される舞台とは言え、当て書きの要素は必ずあるからそこは柔軟に変えてもよかったんじゃないかなあ。というのが私の意見でした。
あ、あともう一つ、これはいい改変だったと思うんだけど(以下ネタバレ注意)、最後コンラッドがキムを襲おうとするところ。本来は本当に襲おうとして、直前でみんなに見つかるという話だったのですが、令和なのでwキムに淫行条例という言葉を持ち出されて躊躇してましたねw 日頃ポリコレに批判的な私でもこれは仕方ないなwと思いました。だってコンラッドの扱いひどすぎだもんw バカで傍若無人で最後10代の女の子襲おうとしてお縄になるなんて、モデルとされたエルビスが訴えたら勝てるんじゃないの?と思うw この辺の緩さもシットコムなんだよな〜。
シットコムと言えば、2009年にBWでリバイバル上演された際、アルバートを演じたのが「フルハウス」のジェシーおいたんことジョン・ステイモスで分かってるな〜と思いました。でもジェシーならプレスリーリスペクトだからコンラッドじゃないの?という意見も多かったそうでそれも分かる…
ついでに1963年に映画化もされているんだけど、舞台版ではなかった主題歌が追加されてるんですよね。これは日本でも中尾ミエが歌ってヒットしたらしいです。70overのうちの母親も知ってましたw 中尾ミエさんも現役なんだからすごいね〜。
とまあ、感想よりうんちく語りが多くなってしまったけど、それだけこの作品に思い入れあるということなのかもしれない。日本で上演してくれてよかったな〜とつくづく思います。しかし、日本の客にはやはり馴染みが薄いという印象を持ったので、もっと多くの人に見てほしいと思ってこの記事を書きました。音楽が楽しいハッピーミュージカルは最高だよ!